凡退で悔し涙を流したことも…強烈すぎる“責任感” DeNA牧が全うした4番の大役

DeNA・牧秀悟【写真:荒川祐史】
DeNA・牧秀悟【写真:荒川祐史】

1点を追う9回にファウルで粘り9球目…三浦監督「ファンの思い乗り移った」

■阪神 3ー2 DeNA(CSファースト・10日・横浜)

 DeNAは10日に本拠地・横浜スタジアムで行われた阪神とのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージ第3戦に2-3で惜敗し、昨季最下位から2位に躍進したシーズンを終了した。今季プロ2年目にして4番に定着した牧秀悟内野手も、最終打席で“魂のヒット”を放ち鮮烈な印象を残した。

 一球一球に、3万2977人の観客をのみ込んだスタンドがどよめく。DeNAは1点を追う9回、先頭で4番の牧が打席に入った。阪神・湯浅に対し、粘りに粘る。カウント1-2からワンバウンドのフォークを辛くも見極めると、5球目の153キロ、6球目の155キロ、7球目の153キロを次々とファウルにし、8球目の内角低めのフォークもバットに当てファウル。そして9球目、真ん中低めに来た152キロの速球をとらえ、三遊間を真っ二つに破った。

 牧は打った瞬間、思わず味方の一塁側ベンチへ向かって拳を突き上げ、一塁ベース上では興奮気味に何度も手を叩いた後、「ウオーッ」と言葉にならない声を上げた。三浦大輔監督も「ベンチの思い、スタンドのファンの思いが乗り移ったヒットだったと思います」と絶賛した。

 牧の脳裏には、3回の打席の悔しさが鮮明に残っていたに違いない。阪神先発・才木から2点を先行し、なおも1死一、三塁の好機だったが、救援した2番手・浜地のカットボールに二ゴロ併殺打に倒れた。ここで追加点を奪えていれば、試合の結果は違っていたかもしれない。6回2死の打席では4番手・西純から左前打を放ったが、後続を断たれ得点には結びついていなかった。結局、9回もチームは1死満塁としながら、代打の藤田一也内野手が二ゴロ併殺に倒れ、追いつけずじまい。それでも三浦監督は「確かに点は取れなかったが、最後まで誰一人諦めることなく、チャンスをつくった。精一杯やった結果だと思います」と、愚痴めいたセリフは口にしなかった。

 就任2年目の三浦監督から開幕4番に指名された牧は今季、新型コロナウイルスの陽性判定を受けて登録を抹消されていた4月の6試合、左足首を痛めて欠場した7月の2試合を除き、出場した全135試合で4番を全う。CSでも不動だった。“2年目のジンクス”もささやかれた中で、4番としてこだわりを持つ打点は、ヤクルト・村上に次ぐリーグ2位タイの「87」をマーク。24本塁打(リーグ4位タイ)、打率.291(同8位)を含む打撃3部門で、同い年のライバルの阪神・佐藤輝を上回った。

 牧の責任感は強烈だ。2試合連続無安打の翌日に本塁打を放っただけで、「全く打てていなかったので、本当に情けないと思っていた」と話し、周囲を驚かせた。チャンスに凡退し、ロッカールームで悔し涙を流していたこともあったという。今季は序盤に猛打を振るい、村上より先に3冠王獲得の可能性が取りざたされたほどだったが、6月に月間打率.207(87打数18安打)の不振に陥り失速した。満足することを知らない男が、来季はどんな4番像を披露するのか、楽しみしかない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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