言えなかった心の病 続いた不眠と動悸…元中日外野手が球場に行けなくなった日

眠れない日は主治医に電話、睡眠導入剤に頼った日も

 症状は改善と悪化を繰り返す。プロ2年目の2020年に1軍デビューを果たし、翌2021年は初めて開幕1軍入り。しかし打撃で結果が残せず、6月に2軍降格。残されたシーズンでの再昇格を目指したが、心がついてこなかった。

 全く寝れず、げっそりした顔で球場へ行く。「寝てないけど大丈夫かな。ヒット打てるかな。集中力持つかなって、どんどん考えちゃって」。緊張とは全く別物の動悸が襲ってくる。打席で結果が出ないとまた1軍が遠のき、余計に眠れない夜を迎える。主治医に電話をかけ、話を聞いてもらって心を落ち着かせる。睡眠導入剤に頼った日もあった。

 症状がひどくなると、ついに球場に行けなくなった。「他の人は頑張れているのに、僕だけ逃げた」。自分で自分を否定をしても、答えはどこにもない。ただ自らの心に寄り添って、付き合っていくしかなかった。迎えたプロ4年目の今季、1軍で11試合出場にとどまり、自然と覚悟する。「プロとしてはダメだと思うんですけど、戦力外になって気が楽になったような感じでした」。思った以上に、清々しかった。

 4年間で59試合に出場し、0本塁打、0打点、打率.174。「やっぱり、楽しいことはあまりなかったですね」。夢見たプロの舞台は、想像した景色とは違った。「もっと違う考え方でできれば、楽しかったのかな」。ただ、己を悲劇の人にするつもりはない。「普通にプロで負けたって思ってます。実力不足。自分が弱かっただけ。そう書いてもらって結構です」と言い切る。

 ほんのひと握りしかなれないプロ野球選手だからといって、誰もが強靭な精神力があるわけじゃない。こと一般社会に目を移しても、心の病と向き合っている人は思った以上にいる。ふとしたきっかけで、体調を崩す人だっている。

「発症した時、僕は人に言えなくて嫌でした」。誰かに共感してもらえることが大きな支えになった経験から、YouTubeチャンネルを立ち上げた。「同じような思いや症状を抱えている人に、少しでも力になれるような仕事をしていきたい」。苦しみしかなかったプロ野球生活でも、これからきっと役に立つと信じている。

【映像】自律神経失調症について主治医と話す元中日の滝野さん

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