ノーノー寸前から落合にサヨナラ被弾の悪夢 “異変”気付くも…今も抱く33年前の後悔

中日、巨人などで活躍した中尾孝義氏【写真:中戸川知世】
中日、巨人などで活躍した中尾孝義氏【写真:中戸川知世】

1989年8月12日、8回まで無安打投球の巨人・斎藤は9回に落合にサヨナラ弾を浴びた

 ノーヒットノーラン寸前から一転しての大逆転勝利。今も語り継がれるのが1989年8月12日、ナゴヤ球場で中日・落合博満内野手が巨人・斎藤雅樹投手に浴びせた逆転サヨナラ3ランだ。9回1死まで中日打線を無安打に封じていた斎藤にとってはまさかの結末となったが、その舞台裏では、いったい何が起きていたのか。巨人捕手としてマスクをかぶっていた野球評論家の中尾孝義氏が解説した。

「今考えたら、あの時、落合さんには四球でもよかったんだよね。ホームラン以外だったら、よかったんだから」。中尾氏は今でも悔しそうに振り返る。真夏のナゴヤ球場。斎藤は抜群の投球を見せていた。その年は5月10日の大洋戦(横浜)から7月15日のヤクルト戦(東京ドーム)まで11試合連続完投勝利をマーク。そんな“ミスター完投”が今度はノーヒットノーランまで達成しそうな勢いだった。

 一方の中日先発・西本聖も好投。巨人打線はなかなか得点できなかったが、8回表にようやく1点を先制。9回表には中日リリーフ陣からクロマティ、原辰徳が連続ホームランを放って2点を追加し、3-0。注目は斎藤の偉業だけとなり、ナゴヤ球場は異様なムードに包まれた。その流れが急激に変わった。あとアウト2つに迫った9回裏1死から代打の音重鎮が初球を右前打。これでノーヒットノーランがなくなったが、まだ終わらなかった。

 彦野利勝は二飛に倒れたが、川又米利が四球を選び、2死一、二塁。仁村徹が右前打を放って1点を返し、なお2死一、三塁から落合がドカンと逆転サヨナラ3ランをぶちかましたのだ。中尾氏はこう明かす。「9回の斎藤はボールが来ていなかった。全然違ったんです。音は低めの真っ直ぐに強いからインハイに構えたんだけど、それが真ん中低めに。それまでは構えたところに来ていたんですけどね」。

 落合にはワンボールからの2球目、真ん中外寄り、141キロのストレートを右中間スタンドに運ばれたが、実は斎藤を襲っていたアクシデントがあった。「8回にマメがつぶれていたらしいです。あの場面で打った落合さんはすごかったですけど、もしマメがつぶれていなかったら、(ノーヒットノーランも)いけていたかもしれない」。

 前年まで中日に在籍していた中尾氏は、音のことも、もちろん落合のことも熟知していた。それだけに悔やまれる一戦。「俺の中日時代、落合さんが打てなくて負けた時、星野監督が試合後のミーティングで『4番が打たんと負けるわ!』と声を荒げたことがあった。その後、落合さんは『4番だって打てない時はあるよなあ』ってこぼしていたけど、(斎藤からの一発は)あれはまさに4番の仕事だったね」。そして、もう一度繰り返した。「あの時の落合さんには四球でいい。今ならそう言うね、きっと」。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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