「攻略は無理」村田兆治氏に磨かれた感性 最も三振を奪われた“三振しない男”の感謝

最も安打と本塁打を打った村田氏との対戦は「自分の財産になりました」

 興味深いデータもある。新井氏が現役時代に最も対戦し、一番ヒットとホームランを打ったのが村田氏。対戦成績は通算200打席65安打6本塁打の打率.325だが、三振も最多の13個を記録している。通算7963打席、422三振で三振率は5.3%の“三振しない男”が最も苦しみ、得意とした投手ともいえる。

「独特のフォームを打つにはどうしたらいいか。タイミングを取ることも勉強になった。投手によって打席でのタイミングは変えないといけないと教えてもらい、自分の引き出しが増えていった。非力なバッターほど、力勝負でくる。私は相手の力を利用して打つタイプだった。若い頃は全く打てなかった。

 追い込まれたらお手上げなので、直球やスライダーのストライクは絶対に前に飛ばさなければならない。これができるようになって結果を出せるようになった。村田さんのおかげで自分の打撃が成長していくのを感じることができた。同じ時代に対戦することができたことで勉強させてもらったし、自分の財産になりました」

 引退後も名球会総会などで何度も顔を合せる機会があった。そんな中で、今でも忘れられない言葉がある。名球会イベントで最初に会った時に「こちらが挨拶をすると『お前、俺からよく打ったな』と声をかけてくれた。現役時代のことを覚えてくださっていた。嬉しかった」と、当時を振り返る。

 ユニホームを脱げば気さくで優しい人柄。素人が相手でも、“勝負”では、プロの凄さを味わってもらうために「手加減無用」の投球は変わらなかった。豪快なマサカリ投法は、もう見ることはできないが「野球界の発展を含め、本当に素晴らしい功績を残された。村田さんの思いは今後も受け継がれていくと思います」と、新井氏は感謝と惜別の言葉を送っていた。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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