日本虜にした「愛子スマイル」 モーグル上村が語った“最後の自己満足”に五十嵐共感

ともに1979年生まれの同級生である五十嵐亮太さん(左)と上村愛子さん【写真:荒川祐史】
ともに1979年生まれの同級生である五十嵐亮太さん(左)と上村愛子さん【写真:荒川祐史】

最後の五輪決勝で見せた自分らしい滑り「思いっきりいこう!」

上村:そうなんです(笑)。五輪では予選で2本滑って上位20人が決勝に進み、決勝では1本目で12人、2本目で6人に絞られます。最後の3本目、スーパーファイナルまで残るには1つでも減点されると残れない。だから、最後のソチでは、予選から決勝2本目まではめちゃくちゃ抑えて、ミスがないよう攻める滑りはしなかったんです。ギリギリ6位でスーパーファイナルに残り、「もういいんだ、思いっきりいこう!」と攻める滑りをしたらタイムが1秒も縮みました(笑)。

五十嵐:見ている人には「上村さん、守りに入っているな」と分かるんですか?

上村:私にとって“守り”でも、ジャッジは減点要素の少ない滑りを求めるから評価されるんですよ。だから、技術で攻める私の滑りは一旦置いておいて、最後の6人に入る戦いをしなければいけない。そして、最後の1本では自分の滑りをしようと。

五十嵐:勝つためには大切なアプローチですよね。

上村:最後に自分の滑りをすると、会場やテレビで見てくれた人の心は鷲づかみにする。一方、ジャッジの評価は「ここまで安定して滑ってきたのに……」と低い(笑)。それでも最後の五輪で後悔するのは嫌だという気持ちが強かった。それこそ自己満足ですよね。点数は伸びなかったけど、攻めてタイムを伸ばしたし、皆さんに「最高だった!」と言ってもらえたので、そっちを取ろうと(笑)。

五十嵐:上村さん、穏やかに話すし、落ち着いた感じですけど、勝負に関しては結構やんちゃだな(笑)。本当は激しくバーンっていきたいタイプ。

上村:そう、負けず嫌いなんです(笑)。

五十嵐:でも、その方が華があるし、見ていて面白いから、人を惹きつける魅力になる。長く応援されたのも、そこなんでしょうね。普段は全然そんな雰囲気はないけど、心ではメラメラと(笑)。家で旦那さん(アルペン元日本代表・皆川賢太郎さん)といる時に、アスリートで強気な面が出ることもあるんじゃないですか。

上村:戦う気持ちは家に持ち込まないようにしていたので、あまりないと思いますよ。

五十嵐:僕は持ち込まないつもりでいたけど、勝ち負けに左右されることもあって、結果として持ち込んでいたことがありましたね。

上村:今と比べたら、確かに意見を言い合うことは多かったかも。持ち込んでいなかったと思うけど、相手から見たら……。

五十嵐:相手からすると、ね。これは旦那さんに聞いてみないと(笑)。

○上村愛子(うえむら・あいこ)1979年12月9日、兵庫県生まれ。2歳の時に長野へ転居してから、雪やスキーと身近に育つ。中学2年生でアルペンスキーからモーグルに転向し、高校3年生だった1998年に長野五輪に出場し、7位入賞。2014年のソチまで五輪5大会連続入賞した。2007~08シーズンには日本人初のW杯年間総合優勝の快挙。2014年に引退後は競技の普及や環境活動などに取り組んでいる。11月9日にイラストを手掛けた絵本「ゆきゆきだいすき」(小学館)が出版された。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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