恐怖でサイン出せぬ捕手「指が動きません」　打たれたら鉄拳制裁「一番殴られていた」

サイン交換の際に指はグーのまま…試合中に固まった中村武志氏

　そんな星野監督に、当時、一番かわいがられていたのは中村武志捕手だという。小松氏は「一番、殴られていたのもあいつだけどね。中尾さんとか、大石さんはけっこう、インサイドが多かったり大胆なリード。それがタケシの場合は外中心。打たれたらってのがいつも頭にあったからだと思う」と話す。

　それほどのプレッシャーの中での戦いの日々だった。試合中にはこんなこともあった。「タケシがサインを出す時にグーのままだから、マウンドに呼んで『どうしたんだ』って聞いたら『指が動きません』って。何を出しても打たれる気がしたらしい。『わかった。こっちがサインを出したるよ』って言ったんだけどね」。

　中村はそれらを乗り越えて中日の正捕手の座をつかんだ。その成長を一番喜んだのは星野氏だった。もちろん、今の時代には受け入れられないことばかりだし、この種のエピソードに抵抗がある人も多いだろう。だが、現実に星野氏に感謝している人が多いのは紛れもない事実だし、小松氏もそれをよく知っているからこそ、振り返ることができる。

　確かに星野監督は怒ったら怖かった。それはすさまじいパワーだった。小松氏は星野氏と落合博満氏絡みでも覚えている“事件”があるという。

（山口真司 / Shinji Yamaguchi）