少年野球のカリスマが初めて試合中に泣いたワケ 大人を変えた“子どもの全力プレー”

「大人たちは全力でやっていますか?」保護者の表情に変化

 東京遠征ではAチームは全勝し、Bチームは結果を残せなかった。辻監督はBチームの保護者を集めて、こう説いた。

「子どもたちの全力を見ましたか? 大人は子どもに全力でやれと言っているわりに、仕事も家事も育児もさぼっていませんか? 大人たちが全力でやっているか、もう一度考えましょう。子どもたちの全力プレーに心を動かされたのであれば、全力で子どもたちをサポートしてほしい」

 辻監督は保護者の表情、目の色が変わったと感じた。選手に序列をつけてAチームとBチームに分ける「成果主義」。さらに、体が動かなくても全力を尽くす「令和の根性野球」。効率的に結果を出す方法を追求し、「世界一楽しく! 世界一強く!」を掲げていた多賀少年野球クラブは、次のステージに進んでいる。

 少年野球では近年、勝利至上主義や全力を否定的に捉える風潮がある。他の競技や社会も同じかもしれない。もちろん、暴言や暴力といった大人の都合による行き過ぎた勝利至上主義は肯定されるはずはない。

 ただ、辻監督は誤解を恐れずに「勝ちたいと思っているからこそ、勝つ以外に学ぶことがあるんです。勝利を目指さなければ何も生まれません」と力を込める。そして、勝利を貪欲に欲し、常に全力でプレーする選手の姿から1つの確信を得た。

「選手たちの全力は大人を変える。もしかしたら日本や世界を変える力があるかもしれません。大人が変われば子どもが変わるのではなく、子どもの姿を見て大人が変わっていく時代になっていくはずです」

(間淳 / Jun Aida)

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