WBCで選手イラついても「正直に答えてほしい」 コーチが毎日繰り返した“事情聴取”
数十台のパトカーと白バイに先導されて深夜の米国をバス移動
念入りな作業が選手をいらだたせたかも、というわけだが、与田氏にとってはどれも貴重な経験だった。「山田(久志投手コーチ)さんには、どうしますか、というクエスチョンマークを絶対に伝えてはいけない、原監督にもそうです。“誰でいきます”、“誰を準備させています”と必ず“です、ます調”でね。うーとか、えーとかやっているうちにあっという間に時間が経ってしまうので。それを経験させていただいたことも財産になりましたね」。
思い出はいくつもある。「試合でのこともそうですけど、食事会場の雰囲気、バスの中の空気、試合では見せない選手たちの素朴な表情、素朴な会話とかもね」。とりわけ、第2ラウンドを終えて数十台のパトカーと白バイに先導されてサンディエゴから準決勝、決勝の舞台、ロサンゼルスまで夜中にバス移動した時のことも印象深いという。
「バスがハイウエーの真ん中で止まって、たぶん、サンディエゴの警察からロサンゼルスの警察に引き継がれたと思うんですけどね。そこからまたホテルまで先導されて。『こんなこと一生ないよな』とか言いながら、私も含めてバスの中でみんな、はしゃいでいましたからね」。それはまさしくグラウンドとは違う顔だった。「そんな特別なサポートをしてくれる、そういう期待を集めた大会なんだなということも、あの時は感じましたよね」。
侍ジャパンの優勝で幕を閉じた2009年大会。決勝の韓国戦ではイチローが劇的な勝ち越し打を放った。準決勝から抑えに回ったダルビッシュ有は魂のピッチングを見せた。ここ一番での岩隈久志の激投、馬原孝浩の踏ん張り、マウンドだけでなくブルペンでもチームを引き締めた藤川球児……。与田氏は「最終的には選手が我々をサポートしてくれたという感じがすごく残る戦いだったんですけどね」と笑みを浮かべた。そして、こう話した。「すべてが宝物です。経験させていただいた方に感謝の気持ちしかありません」。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)