WBCで転換期を迎えた“日本野球” 大谷&ダルらがもたらした「ベースボール」の本質

宮崎合宿中からチームメートと積極的にコミュニケーションを図る姿が印象的だったダルビッシュ有【写真:小林靖】
宮崎合宿中からチームメートと積極的にコミュニケーションを図る姿が印象的だったダルビッシュ有【写真:小林靖】

野球とベースボールの違いは何か

 野球とベースボールの違いは何か。技術的なことや道具の違いなどを挙げればキリがないが、文化の違いが大きい。野球の良さは緻密で細かいところまで計算されている。ベースボールは寛容な雰囲気の中で楽しむことがベースになっている。ただ今大会、大谷は「ベースボール」を、ヌートバーは「野球」に没頭しているように見えた。異国の地で戦う人は、その土地の文化に馴染むことが成功への近道とされる。文化を受け入れた2人の融合がそれぞれの楽しみ方を表現し、侍ジャパンの勢いを加速させた。

 早くからアメリカの文化を受け入れ、後輩たちに「楽しむ」道筋を作ってくれていたダルビッシュ有投手の存在も大きかった。規則やルールに縛られ、窮屈になっている日本の選手を声かけや食事の席などで救った。世界一奪回の“十字架”を背負わされているような選手にはチーム合流前から「気負う必要はない」「命を取られるわけではない」と心の余白を与えた。

 やるときはやる。そして、休む時は休む。宮崎合宿から強化試合に進むにつれて、選手たちの表情は穏やかになり、ベンチ内も明るく、活気に満ち溢れていた。試合中のベンチにもペッパーミルを持ち込んでみたり、左脇腹の負傷で辞退した鈴木誠也外野手のユニホームを飾り、絆創膏のようなテープを患部につけてみたり……。

 村上が岡本和真内野手を「師匠」と呼び、2人は東京プールの不振時に励ましあっては笑っていた。「僕らだけが打っていない」などと自虐的なコメントもあった。でも、どうだろうか。米国での決勝戦でアベックアーチを放ち、ベンチ内で抱きつくなんて、本人たちも想像しただろうか。重圧からの解放で、プロ野球選手であってもまだ高みを目指せるのだ。

学生野球の父・飛田穂洲さんが残した「無私道」という言葉が持つ意味

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