侍J、最強継投を可能にした“準備の男” 米国で登板ゼロも…コーチが感謝するワケ

宮崎キャンプでの侍ジャパン・宇田川優希【写真:小林靖】
宮崎キャンプでの侍ジャパン・宇田川優希【写真:小林靖】

宮崎キャンプはどん底からのスタート…大成長に厚澤コーチも感謝

 思えば、1か月前。宮崎キャンプ第1クールで宇田川はどこか強張った表情をしていた。オリックスのキャンプで中嶋聡監督から“減量指令”を受け、WBC使用球にも当初は苦戦し、フォームを崩したところからのスタートだった。球場からブルペンに移動する際、ファンに笑顔で手を振る山本とは対照的。ファンに見向きもせず、何も話さずに歩を進めていた。それは決して冷たい対応ではなく、余裕がなかったのは明らかだった。

 ダルビッシュ、大谷を筆頭にNPB各球団のエースや守護神と、日本を代表する投手が集結した侍ジャパン。昨年7月まで育成選手だった右腕が、精神的に疲弊しないわけがない。取材に応じた際にも「全然、自分から(ほかの選手へ話に)行けないので」「チームになじめていなく、気疲れもあります」と困惑気味に話していた。

 ただ、ダルビッシュが世界一の理由に「チームワーク」を挙げた通り、宇田川が緊張せず100%の力を発揮する環境は整っていた。第2クール前の休みに開催された「宇田川会」。宇田川自身もダルビッシュからの「全然太ってないやん」というひと言で吹っ切れた。体重を気にしすぎず、過度な減量をやめた。そして、本戦初登板となった10日の1次ラウンド韓国戦では7回に登板。トミー・エドマン内野手(カージナルス)、キム・ハソン内野手(パドレス)を三邪飛、三振に仕留めた。現役バリバリのメジャーリーガーを抑えたことは自信になった。

 侍ジャパンに選出される前、宇田川の目標は「開幕1軍」だった。大会終了後、「侍ジャパンに選ばれて難しい部分もあった。喜びもあった」と心境を明かしていた。栗山英樹監督からは「色々言われてるかもしれないけど俺は信じてるから」と言葉をもらったといい「その言葉が1番記憶に残っています」と感謝する。

 オリックスで育成から見ていた厚澤コーチは、帰国後の会見で「今回ブルペンで一番バックアップしていただいたのが会長の宇田川自身」「一つ心残りは準決勝、決勝と宇田川ジャパンの宇田川をマウンドにあげることができなかった」と名前を挙げて感謝した。宮崎キャンプから“激動の35日間”を経て成長を遂げた“ブルペンの番人”。米国での登板がなくても、間違いなく金メダルにふさわしい活躍だった。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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