“新湊旋風”に飲み込まれた37年前 元燕の名手が経験…甲子園に棲む「魔物」の正体

6回裏に一挙6失点「僕が思う魔物は緊張感。普段通りできない」

 しかし、その裏に事態は一変した。新湊の先頭打者が初球に詰まりながらも左前に落とす。次打者は止めたバットに投球が当たり、ぼてぼてのゴロ。拾った投手が二塁封殺を狙ったが、セーフとなり野選。新湊を後押しする大声援のボリュームがさらにアップし、どんどん広がっていった。

「僕たちは、委縮したつもりはないんですけど……。新湊が乗っちゃったという感じでした」。無死1、2塁。飯田氏は続く打者がバントの構えからバットを引いた時に飛び出した二走を刺すべく送球するが、またまた際どくセーフとなった。

 「球場全部が新湊ファンのイメージ。凄い雰囲気でしたよ」。この回、バッテリーは間を取ったり、けん制球を投げたり、ウエストしたり。内野陣も投手に声を掛けた。小枝守監督も伝令を出して懸命に対処した。だが、3本の適時打に押し出し四球で一挙6失点。「あれー、あれー、何でってという感じで。魔物ばっかりでした」。

 甲子園には魔物が棲んでいる――。飯田氏は「よく聞くじゃないですか。僕が思う魔物は緊張感です。普段通りできない。9回に大逆転とかありますよね。そういうのは緊張しまくって、自分じゃなくなってしまうから。テレビ中継もないし、あんな声援を受けたことがないですし」と述懐する。

「いやー、絶対に勝てましたよねぇ……」。それでも「新湊の酒井君は良いピッチャーでした。低めにしかボールが来なかった」と認める。新湊は準々決勝も京都西を延長14回の末に2-1で倒し、ベスト4に進出した。「大旋風ですよね」。飯田氏は爽やかに称えていた。

(西村大輔 / Taisuke Nishimura)

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