心の中で「追い越してやる」 怪我に苦しむ日々を越え…故郷の家族に誓う完全復活

西武・ブランドン(写真は2021年)【写真:荒川祐史】
西武・ブランドン(写真は2021年)【写真:荒川祐史】

豪快な打撃が武器も昨年は一軍未出場の西武・ブランドン

 持ち味の豪快な打撃で飛躍が期待されたが、長いリハビリを強いられた。西武のブランドン内野手は、東農大北海道オホーツクから2020年ドラフト6位で入団。ルーキーイヤーは開幕1軍の座をつかみ、32試合に出場して3本塁打をマークしたが、2022年は度重なる怪我に苦しみ、1軍出場なしに終わった。

 股関節の怪我は初めてだった。最初は筋肉痛だと思っていたが、次第に痛みがひどくなった。「チャンスでしたし、何とか食らいついていこうとやっていましたが、体は正直で、動きがおかしくなってしまいました」。医師からは治りにくい場所だと告げられた。

「選手によって差があって、1年かかる人もいれば、半年で治る人もいると言われました。治療をしながら、動ける範囲でマシンを打ったりしていましたが、なかなか実戦に復帰できず『何してるんだろうな』という感じでした」

 帰宅してからは野球のことは考えず、映画を見たり、ドラマを見たりして気分を紛らわせた。よく見ていたドラマは、日本でも大ヒットした韓流ドラマ「梨泰院(イテウォン)クラス」。成功をつかむため、逆境の中奮闘する主人公に自らを重ね、必ずここから這い上がると気持ちを奮い立たせた。だが、順調にはいかなかった。

「2軍の試合に復帰してすぐに肉離れをしたり、アクシデントで全然違う場所を痛めたり。『なんでこんなについていないんだろう』と思いました。試合に出られるようになって1、2週間くらいは『打てるかな』と考えるより、とにかく怪我をしないように、それだけを心がけるようになりました」

ドラフト同期入団の渡部に刺激を受け「早く1軍の舞台に」

 昨年は2軍で19試合の出場にとどまったが、打率.345をマークした。「怪我をしなければ打てる自信があるといったらあれですけど、自分の出せる力を出せばやっていけるという実感はありました」。手応えをつかみつつあったからこそ、度重なる離脱が悔しかった。コーチやチームメートは「怪我をしなかったら打てるんだから」と声をかけてくれた。その言葉だけが励みだった。

 故郷・沖縄に住む母からは「大丈夫? 何してるの? なんで試合に出てないの?」と電話があった。「うん、ちょっと。練習は、しているよ」そう答えた。遠い場所から応援してくれている家族に、心配をかけたくなかった。高齢の祖父は、別の選手を見て「あれ、ブランドンか?」と言っていると聞いた。子どもの頃、キャッチボールの相手をしてくれた祖父に、活躍している姿を見せなければと思った。

「プロ入りするときに、いろんな人に『怪我だけには気を付けて』と言われましたが、『こういうことだったんだな』と思いました。こんなに怪我が続くとは思っていませんでした」

 1軍では、ドラフトで同期入団の渡部健人内野手が存在感を見せているが、その姿に刺激を受けている。

「『すごいな』という気持ちと『悔しいな』という気持ちの半分半分です。心の中では『追い越してやる』と常に思いながらやっています。今はリハビリをしていた時期とは違うので、早く1軍の舞台に立ちたいと思っています。焦らず急いで、自分の良さをどんどん出していきたいと思っています」

 苦悩のシーズンを送った昨年を「精神的にもつらかった。もう二度と過ごしたくない」と振り返る。オフにはお祓いに行き、お守りを買って今シーズンに挑んだ。今、体調は万全だ。再び1軍を目指す25歳は、持ち前の打撃力を発揮し、遠い故郷に届く活躍を誓う。

(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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