兄弟ともに変則投法 「クビになってもおかしくない」…西武右腕の兄を変えた“プロの知恵”

パナソニック・與座健人【写真:編集部】
パナソニック・與座健人【写真:編集部】

パナソニックのサイド右腕・與座健人は、西武の與座海人の兄

 社会人野球の頂点を決める都市対抗野球が佳境を迎えようとしている。2年ぶりの出場となった近畿代表のパナソニックは、15日の1回戦でJR西日本を3-0で下し2回戦に進んだ。原動力となったのが、右サイドハンドからの力のあるボールで6安打完封した與座健人投手だ。

 西武でアンダースローの個性派として活躍する與座海人投手の兄。弟に遅れてサイドスローに転向したのは「クビになってもおかしくないところを、残してもらった」という危機感と、感謝の念からだった。そこでヒントを与えたのが、当時は投手コーチだったパナソニックの金森敬之監督。日本ハムとロッテでプレーした“プロの知恵”が、剛腕サイドの誕生を後押しした。

 社会人で8年目を迎える與座は、これが東京ドームでの初勝利。さらに沖縄尚学高、関西国際大時代も含めて全国大会での初勝利だった。2年前、冬に行われた都市対抗でも初戦の先発を任されたものの敗れていた。

 以前はオーバースローだった與座がサイドスローに転向したのは、社会人4年目のオフ。下から投げる弟の影響ではなく「腕を下げたくないという気持ちはずっとあったんですが、クビになってもおかしくないところを残してもらえたので……」。社会人野球にも、毎年新たな選手が入ってくる。4年間、ほとんど登板機会を得られずに「下の子が投げているのに……」と危機感が募った。

西武で活躍する弟の與座海人【写真:荒川祐史】
西武で活躍する弟の與座海人【写真:荒川祐史】

普通の投手が生き延びるための覚悟…球速を落とさないための知恵

 金森監督は当時の與座を「普通の投手だったので、チームにいないタイプの投手にしたいという考えがありました」とみていた。ただ腕を下げることで、球速や球威を失うのではという抵抗感が本人にはあった。

 つきっきりでのフォーム改造。そこで生きたのが、プロで様々な選手、指導者を見てきた金森監督の「引き出し」だ。フォームを固める時に取り入れたのは、内野手のスローイングの形。「フィールディングのイメージをつけさせたり、後はテニスのラケットを横から振らせたりもしましたね」。力を抜き、腕を走らせる感覚を覚えたことで、球速は落ちるどころか伸びた。コンスタントに140キロ台後半を計時し、時には150キロに達する。

 昨季、プロで2桁勝利を挙げた弟とは「次元が違うので」と謙遜する。ただパナソニックには、かつての潮崎哲也投手(元西武)や建山義紀投手(元日本ハム)、秋吉亮投手(元日本ハム)のように、サイドスローのエースを輩出する伝統もある。都市対抗には今大会で56回目の出場になるが、未だに優勝はない。今度こそ横手のエースが、チームを頂点に導くか。

(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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