所属決まらず孤独でも…日本球界復帰は「ほぼない」 退団から1か月、筒香嘉智の今

米国に滞在しながら自主練習を続ける筒香嘉智【写真:佐藤直子】
米国に滞在しながら自主練習を続ける筒香嘉智【写真:佐藤直子】

米国の滞在先で明かす現在の心境、“相棒”と過ごす練習の日々

 トレード期限が8月1日(日本時間2日)に迫る中、メジャーでは各球団の動きが活発になってきた。今季に懸けて即戦力を補強するのか、あるいは来季以降を見据えた戦力を整えるのか。7月19日(同20日)には藤浪晋太郎投手が、アスレチックスからオリオールズへトレード移籍。エンゼルスの大谷翔平投手も盛んにトレード候補として名前が挙がった(7月27日にペリー・ミナシアンGMが残留を明言)。

 一方で、やはり気になるのが現在フリーエージェント(FA)になっている筒香嘉智内野手の去就だろう。

 米移籍4年目の今季はレンジャーズ傘下3Aラウンドロックで開幕を迎えたが、6月22日(同23日)に契約をオプトアウトする権利を行使してFAとなった。退団後は新たな活躍の場を求め、米国に滞在しながら自主練習を積む毎日。日本球界への復帰も噂される31歳は今、何を思うのか。米国内の滞在先を訪ねると、予想外にスッキリとした表情を浮かべる筒香がいた。

「野球には試合に出なければできないことと、練習をしていて見つかることとあると思うんですけど、僕は今、試合をしながら何かを見つけることができない分、練習で色々なことを見つけることは最大限できている。そういう意味では、すごくいい時間を過ごせていると思います」

 FAになってから約1か月。滞在先の近くにある高校の施設を借りて、毎日練習を積み重ねている。相手を務めるのは、横浜高校野球部の同期・佐野誓耶(せいや)さんだ。2020年に筒香と一緒にレイズ入りし、球団スタッフとして打撃投手などを担当。筒香がレイズを離れた後も昨季までチームに残ったが、今年になりタッグが復活した。出会ってから17年が経とうという勝手知ったる間柄。「誓耶のおかげで野球に集中できている」と、信頼する“相棒”の存在は心強い。

レンジャーズ時代の筒香嘉智【写真:Getty Images】
レンジャーズ時代の筒香嘉智【写真:Getty Images】

日本球界からオファーが届くも帰国の選択肢は「ほぼないです」

 出場機会や昇格の可能性などを総合的に考え、代理人のジョエル・ウルフ氏と相談した結果、契約をオプトアウトした。だが、球宴を終え、後半戦がスタートしても所属先は決まらず、孤独な練習が続く。不安な気持ちは「もちろんあります」。同時に「試合でプレーしない期間が長引けば長引くほど(契約は)難しくなると思う」と、現状を冷静に受け止めている。

 だが、焦ってみても、不安になってみても、状況が変わるわけではない。「どうなるかは僕が左右できることではない」と契約ごとは代理人に任せて、自身は余計なことは考えず、いつ契約が決まってもいいように練習に集中するだけだ。

 誰もが気になるのは、新天地の中には米球界だけではなく、日本球界も含まれるのか否か、だろう。「有難いことに日本から何球団かオファーをいただいていますし、本当に熱心に声を掛けてくださる球団もある」と感謝しながら、言葉を続ける。

「非常にうれしいことは確かなんですけど、僕の中では今、日本に帰るという選択肢はほぼないです。まだこっちで何もやりきれていない。何かを達成できるまで、ただやり続けるだけだと思いますし、可能性がある限り、自分から中途半端な形で投げ出して日本に帰る感覚はまったくないですね」

日本球界からオファーが届くも帰国の選択肢は「ほぼないです」と語った【写真:佐藤直子】
日本球界からオファーが届くも帰国の選択肢は「ほぼないです」と語った【写真:佐藤直子】

ようやく見つけた自分らしさ「自分ではない自分が常にいた」

 ここまでメジャーでは通算182試合に出場し、打率.197、18本塁打、75打点。マイナーでは通算132試合で打率.266、23本塁打、95打点。決して納得のいく数字は残せていない上に、自分らしさをもって勝負できた感覚がない。レイズ入りした2020年以来、振り返ってみると「自分じゃない自分がいた」と打ち明ける。

「思っている以上に、自分が周りを気にしていた部分がありました。日本でもアメリカでも色々な方が色々なことを、良かれと思って言ってくれる。ただ、自分にしっかりした軸がなかった分、そういった声に左右されてブレてしまった。それはもちろん、自分の責任。打席に入ってもピッチャーと勝負できていなかったり、自分ではない自分が常にいた感じです」

 自分らしくあれるようになったのは、つい最近のことだ。オプトアウトを機にいったん自分を周囲から切り離し、心も体もフラットな状態にしてみると、「今まで気付けていなかったことを感じるようになったり、本当はいらなかった部分も見えてきたり」したという。

「やっと今、心も体もバッティングも自然に戻った、自分になったなという感覚なんです。作っていない自分なので無理がない感じですね。落ち込んでいるわけではないし、逆に今が楽しいわけでもない。ただ、できることに集中できている感覚です」

紆余曲折の多い道のりに「お前らしいストーリーだな」

 渡米から3年あまり、様々な経験を重ねながら試行錯誤を繰り返したが、ようやく軸とすべきものが定まってきたイメージだ。「(自分の)中って言うんですかね。今はそこを見ることで、生まれるものの大きさに気付いた感じです」。向き合うべきは周囲の声や期待ではなく、自分自身だったのかもしれない。

 マイナー生活、DFA、トレード、オプトアウト、FAとして自主練習をする日々。どれも日本にいれば経験することはなかったし、栄養に気を配りながらの自炊生活もすることはなかっただろう。当初はチームや環境が変わることにストレスを感じていたが、今では「もう環境が変わるストレスは全くないですね」と頼もしい。

「成績に対するストレスや不安は引退するまであると思いますけど、野球をする上で成績以外のストレスや怖さはない。ま、人生何とかなるだろう、と。例えば、日本で想像するよりも、実際に経験するメジャーと3Aの差はかなり大きい。その差に触れられたのは楽しいことではないけれど、人とは違う経験ができたという点で僕には非常にありがたいこと。この経験を通じて生まれる強さは、今後に生きてくるだろうと自分で期待しています」

 子どもの頃から、何をするにしても時間がかかるタイプだったと自認する。渡米後に歩む紆余曲折の道のりは、自分から見て「『お前らしいストーリーだな』って思います」と笑う。他人の目には不器用に映るかもしれないが、誰でもない自分の人生だ。納得がいくまで挑戦は続く。

【写真】笑顔がそっくり? 故郷のイベントに出席…筒香嘉智と兄・裕史さんの2ショット

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