「もう朝か」起きて来られない時も… 朝から晩まで“密着”で感じた監督業の重圧

元広島・野村謙二郎氏【写真:荒川祐史】
元広島・野村謙二郎氏【写真:荒川祐史】

比嘉寿光氏は2014年、野村謙二郎監督付広報を務めた

 元広島内野手の比嘉寿光氏(現広島編成部編成課長)は現役引退後の2010年から2014年まで球団広報を務めた。カープ女子の火付け役としてチームを支え、2014年シーズンは野村謙二郎監督付広報を務めた。編成部に異動した直後の2015年シーズンは開幕前まで黒田博樹投手の専属広報も兼務した。その間は、まさに四六時中接した大物2人との思い出。いずれも勉強になることばかりだったという。

 2014年は野村監督の5年目シーズンだった。就任してから4年間は5位、5位、4位、3位。苦しいシーズンが多かった中、着実に若手を育て、ある意味、集大成の年でもあった。比嘉氏が広報になった1年目が、野村監督の1年目でもあったが「最初はマネジャーの小畑(幸司)さんが監督付をやっていたんですが、僕も広報5年目になって、下(の広報)も入ってきたこともあって、その年、やってみろってなったんです」。

 4年目までの野村監督の苦闘は、一広報として知っていた。食事に連れて行ってもらったり、接する機会もあったが、監督付となれば、また違ってくる。比嘉氏は「広報を4年やって、ちょっと中だるみじゃないですけど、そういうのはあったはずなんで、もう1回、心を入れ替えてやろうと思ったし、もっと野球を勉強したいと思った」という。そして、実行したのが「監督を質問攻めにしよう」ということだった。

「キャンプでは朝、散歩されるので『一緒にいいですか』といって暗い道を横について歩きました。そこで、監督にいろいろ聞きました。前の日から手帳に聞きたいことを書いていました。気になったことは小さなことでも忘れないようにメモしていましたね。監督は“比嘉っておしゃべりだな”って思っておられたかもしれませんけどね」。散歩時だけでなく、シーズン中も機会を見計らって質問したそうだ。

「監督はチーム成績で気持ちも浮き沈みするものでしょうけど、周りにいる僕くらいは、どんな時でも監督がちょっとでも明るくなるようにって考えましたね。それにはいろいろ準備しなきゃって。準備って大事だなって痛感しました。監督はいろいろしゃべってくれたし、教えてくれました。“俺の野球の原点は”なんて話もしてくれましたね」

現在は広島の編成部編成課長を務める比嘉寿光氏【写真:山口真司】
現在は広島の編成部編成課長を務める比嘉寿光氏【写真:山口真司】

2014年オフ、復帰した黒田博樹投手の専属広報も経験

 同時に監督業の大変さも感じたという。「朝起こしに行ったら“もう朝か”みたいな感じで出てこられた時もあったし、それこそ、起きてこられない時もありましたからね」。2014年の広島は巨人、阪神と優勝を争ったものの、3位に終わった。野村監督はこの年限りで退任し、比嘉氏の監督付生活もわずか1年で終わったが「僕にとってすごい濃い1年間でした」と感謝している。

 そして、もう一人、比嘉氏が付いた経験があるのが黒田氏だ。2014年オフ、野村監督から緒方孝市監督になり、比嘉氏は広報担当から編成担当に異動することになっていた中、バリバリのメジャーリーガーだった黒田氏のカープ復帰が決定。日本中が注目する状況となり「鈴木(清明)常務に呼ばれて『ちょっとついてくれないか』と言われて、黒田さん付きをやることになった」という。「異動となって12月に『じゃあな』って言われたばかりだったのに、1月には戻ってくるという形でした」。

 開幕前の3月まで、比嘉氏は黒田氏に付いた。「オープン戦ぐらいまでで、だいたい落ち着くだろうって言われて、そこまでは一緒にいましたが、すごかったですね」。フィーバーぶりだけではない。「黒田さんってこんなにかっこいい人なんだって、僕も横にいながらファンになっちゃいました。誰にこびるわけじゃないし、いい顔ばかりしているわけじゃないんですけど、何かを断る時も全然嫌みがない。物事を面白おかしく言って場を和ませることもあったし……」。

 行動も含めて「すべてが偉大すぎた」と声を大にした。「マウンドでは鬼の形相をして投げるのに、こんな優しい顔もするんだって、そこにも惚れましたね。器がでかい。あまり言葉でやりとりしたわけではないんですけど、この人のためなら一生懸命やりたいって思える人でしたね。横につかせてもらってありがたかったなぁって今でも思いますよ」。

 戦力を底上げし、次の時代につなげた野村監督との日々。まさに“男気”満点だった黒田投手との日々。いずれも比嘉氏にとって忘れられない思い出。自身の人生においても大きなプラスになっている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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