吉田正尚、獲得背景に見た球団の“本気度” 活躍は必然も…地元記者を驚かせた資質とは

Rソックス・吉田正尚【写真:Getty Images】
Rソックス・吉田正尚【写真:Getty Images】

メジャー移籍1年目から打率3割をキープ、地元記者は「Amazing!」

 NPBとMLB。同じ“野球=ベースボール”という競技のプロリーグだが、両者には様々な相違点があることはご存じだろう。ボールや芝の違いなど、観る者の目に明らかなものもあれば、実際にプレーする選手しか感じ得ないものある。それだけに、日本で活躍していた選手がメジャーで活躍できるとは限らず、その逆もまた然りだ。

 これまで日本からメジャーへ移籍した選手を見ると、投手の方が野手よりも長くプレーし、成績を残す傾向にあるようだ。それでも、移籍後1年目から安定したパフォーマンスを続けることは難しい。野手で、ましてや首位打者を狙える活躍となれば、2001年にマリナーズで新人王に輝いたイチロー以来だろう。

 メジャー移籍1年目の今季、殿堂入り確実とされるスーパースターに迫る活躍を見せるのが、レッドソックスの吉田正尚外野手だ。9日(日本時間10日)現在、ア・リーグ5位の打率.304。トップを走るブルージェイズのボー・ビシェット(打率.321)とは少し差はあるが、まだ48試合残すことを考えれば、首位打者も射程内と言えるだろう。

 小柄ながらも力強いスイングを特徴とする左打者。コンタクト能力に優れ、状況に応じて広角にボールを打ち分ける。選球眼も良く、四球数の多さと三振数の少なさはオリックス時代も頭抜けていた。力みのない美しいバッティングフォームに魅せられるファンも多いことだろう。日本ではプロ1年目の2016年こそ打率.290と3割に届かなかったが、2年目以降は昨季まで6年連続で3割をマーク。2020年からは2年連続で首位打者にも輝いた。

 日本屈指の好打者は3月のWBCで打率.409、2本塁打、13打点と大暴れし、侍ジャパンを3大会ぶり世界一へ導いた。メジャーではシーズン開幕直後こそ、打率を1割台まで落としたが、4月20日(同21日)ツインズ戦から16試合連続ヒットを放つなど復調。5月3日(同4日)に3割台に戻してからは、打率.290以上でほぼ3割台をキープしている。

 この吉田の活躍を「Amazing!(大したもんだ!)」と絶賛するのが、地元紙ボストン・グローブのベテラン記者、ピート・エイブラハム氏だ。2010年からレッドソックス担当となり、それ以前はニューヨークでヤンキース担当をしていた。ヤンキースでは全盛期のデレク・ジーターやアレックス・ロドリゲス、松井秀喜ら、レッドソックスではデービッド・オルティスやジャッキー・ブラッドリーJr.らの活躍を見届けてきた記者が注目するのは、吉田の「野球IQの高さ」だ。

吉田が備える野球IQの高さを評価するピート・エイブラハム記者【写真:編集部】
吉田が備える野球IQの高さを評価するピート・エイブラハム記者【写真:編集部】

ポスティングからわずか1日でレ軍と契約合意…ボラス氏「ハマると思った」

「ここまでの活躍を見て思うのは、マサはかなり頭がいいということ。一度対戦した投手には必ずアジャストしてくるし、初対戦であっても常にマサが主導権を握っているように見える。打ち損じは少ないし、調子が落ちたように見えてもヒットは重ねる。ただ闇雲にバットを振るのではなく、カウントによっては逆方向へ打球を運ぶチームプレーもできる。チーム関係者に聞いた話では、レッドソックスと契約する前からメジャーの投手についてかなり予習をしていたようだ。豊富な知識に驚いていたからね」

 昨オフ、吉田がポスティングされたのは12月7日(同8日)のこと。交渉期間は45日間あったが、わずか1日という異例のスピードでレッドソックスと契約合意に達した。ウィンターミーティング最終日に起きた急転直下の出来事を、エイブラハム記者はこう振り返る。

「これまでポスティングシステムを通じて移籍した日本人選手は、そのほとんどが交渉期限ギリギリに契約合意に至るケースが多かった。それがポスティングされたその日に契約合意だっていうから驚いたね。あの日、囲み取材に応じた(代理人の)スコット・ボラスが見せた“してやったり”の顔が忘れられないよ(笑)」

 さらに、こう続けた。「レッドソックスは、かなりの長期にわたりマサをスカウティングし続けてきた。昨季は日本に球団スタッフを4人も派遣して、最終的な評価をしたと聞いている。5年9000万ドル(約126億円)は確かに破格の高値に見えるが、レッドソックスはその価値があると判断した。FAになったザンダー・ボガーツ(現パドレス)の移籍が確実だったことも、マサの契約を後押ししたと思う。契約に見合った活躍かと聞かれれば、守備を含めて『もう一声!』と言いたいところだが、ハイレベルかつ好不調の波の少なさは素晴らしい」。

 まるで手品のように大型契約を結んでみせたボラス氏は、メジャーで躍動する吉田について「我々の見立て通り。ここからまだまだパワーを見せてくれるだろう」と期待する。レッドソックスとの契約に至った背景について問われると「レッドソックスの打線にマサの打撃スタイルがハマると思ったし、守備面でもフェンウェイパークを本拠地とすることはプラスになると思った」と説明。さらに、エイブラハム記者と同様に「マサは頭がいい。数多くの選手を担当してきたが、彼の研究熱心さには感服する」と評価した。

吉田はどんな選手? 地元記者に届いたアダム・ジョーンズからの答え

 吉田がレッドソックス打線の中でどうハマっているのか。それを具体的に説明するのが、エイブラハム記者の同僚であるジュリアン・マクウィリアムス記者だ。吉田について「打撃スキルはまるで手本のよう。僕は最も安定感のある最高の打者だと思う」と評し、続けた。

「(空振りが少なく)ボールをインプレーにすることができるので、おかげでレッドソックス打線がうまく機能するようになった。例えば、1番打者のジャレン・デュランは二塁打が多く、よく出塁する。そこで2番に入るマサがライト方向に打球を運んで進塁させ、続く打者がデュランをホームに返すことができる。彼の高打率やパワーなどに、今どんな打撃が必要なのか読む能力が加わって、成功することができているのだと思う」

 昨オフ、レッドソックスが吉田に興味があると耳にしたマクウィリアムス記者は、ある人物と連絡を取った。2020年から2シーズン、オリックスでプレーしたアダム・ジョーンズ氏だ。吉田とは一体どんな選手なのか――。マクウィリアムス記者の質問に対し、メジャー通算282本塁打を誇る強打者から、こんな答えが返ってきたという。

「『日本のフアン・ソトだ』って言うんだ。というのも、マサはソトのように多才だからって。そして、メジャーの投手も攻略してみせると保証していた。5度もオールスターに選ばれ、長年メジャーで活躍したアダム・ジョーンズが言うんだ。見る目は確かだと思うから信じることにしたけれど、その評価は間違いなく正しかったよ」

 決して派手さはないかもしれないが、常に何かを生み出してくれる安心感がある。誰もが瞠目する打撃技術と野球IQの高さを武器に、吉田はどんな高みにまで上り詰めるのか。メジャーでの挑戦は始まったばかり。しばらくは観る者を楽しませてくれそうだ。

ボストン・グローブ紙のマクウィリアムス記者が吉田正尚選手について語るインタビュー動画全編はこちら
https://abema.tv/video/episode/239-205_s70_p111

【動画】移籍1年目から活躍を続ける吉田正尚のヒミツも…? 地元記者が語る裏話の数々

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