金農フィーバーは「見ているの嫌」 悔しさの中で“ライバル”が驚いた剛腕の劇的進化

ロッテ・山口航輝(左)と日本ハム・吉田輝星【写真:荒川祐史、羽鳥慶太】
ロッテ・山口航輝(左)と日本ハム・吉田輝星【写真:荒川祐史、羽鳥慶太】

ロッテ山口擁する明桜は、秋田大会決勝で金足農に敗れる

 第105回全国高校野球選手権記念大会は、連日熱戦が繰り広げられている。5年前には、金足農(秋田)が強豪を次々撃破し「金農旋風」と呼ばれた。当時、秋田大会決勝で明桜の主砲として対戦したロッテ・山口航輝外野手は、「まさかでしたね」と振り返る。

 山口は、中学まで地元・大阪でプレーし、秋田へ野球留学。「生意気なやつがおるって聞いてました(笑)」と、冗談めかして語るのが金足農の1年生、吉田輝星投手だった。その後、山口と吉田は県内で何度も対戦し“ライバル”といえる間柄となる。

 2年夏には決勝で初対戦し、5-1で打ち破って甲子園出場を決めた。3年夏の開会式では「また決勝でやろうな」と約束。両チームは順調に勝ち進み、2年連続の決勝での顔合わせとなった。

 最後の夏も、吉田攻略には自信があった。春の秋田大会では金足農に5-6で惜敗したが、5回途中から登板した吉田から6安打を放って2点を奪っていた。「ほとんど真っすぐで、変化球もあまりストライクが入っていなくて、スピードだけ合わせていればなんとかなるかなと」。

 しかし、迎えた決勝戦で、吉田の進化に驚かされる。「輝星も気合が入っていた。真っすぐは速くなってて、手も足も出なかったですね」。初回の第1打席で、内角の直球に手が出ず見逃し三振。2打席目は一飛。3打席、4打席目は外のスライダーに三振に倒れた。それまで大会打率5割だった山口は、完璧に抑え込まれた。

 試合は吉田相手に一向に点を奪えない展開。1点ビハインドの8回には明桜の2番手・曽谷龍平投手(現オリックス)が吉田にスクイズを決められ、「ああ、終わったなって」。そのまま0-2で敗れ、優勝はならなかった。

“金農旋風”は「見ているのが嫌でした」

 11年ぶりの甲子園出場となった金足農は、横浜など強豪校を次々打ち破る快進撃で、「金農旋風」と社会現象にもなった。山口は初戦はアルプススタンドに駆けつけて応援したが、その後は悔しさもあってなかなか試合を見ることが出来なかった。「見たくなかったですね。見ているのが嫌でした。まさか、そんなに勝つとは思ってなかったので」。

 その後、山口はロッテ4位、吉田は日本ハム1位でプロの門を叩き、互いに2軍で研鑽を積んだ。「いつか1軍で対戦しような」と連絡を取り合い、4年目の昨季には1軍での対戦も実現。“因縁の相手”には特別な感情がある。

「対戦は楽しいですけど、正直あんまり対戦したくないですね。(打とうと)意識しちゃうので。輝星と龍平(曽谷)はやりたくないです」

 しかし今季は、吉田は今季1軍登板がなく、山口もここまで悔しさが大きいシーズンとなっている。「1本くらいホームラン打っとかないと、舐められますから」。また1軍で熱い視線を交わすため、切磋琢磨していく。

(上野明洸 / Akihiro Ueno)

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