新天地で“最強”に進化した好打者、盤石の先発陣支えた22歳 セイバー目線の8月パMVP
貯金9のオリックス…得点率ワーストも盤石の投手陣がカバー
オリックスが独走態勢に入った8月のパ・リーグ「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。選出基準は打者の場合、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数などの公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。
8月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
・オリックス:16勝7敗2分
得点率2.92、打率.238、OPS.639、本塁打14、失点率2.04、先発防御率2.13、QS率52.0%、救援防御率1.59
・日本ハム:14勝11敗1分
得点率4.15、打率.257、OPS.706、本塁打19、失点率3.84、先発防御率2.95、QS率46.2%、救援防御率3.30
・楽天:12勝12敗
得点率3.83、打率.260、OPS.696、本塁打14、失点率3.89、先発防御率3.92、QS率45.8%、救援防御率3.00
・ロッテ:11勝15敗1分
得点率3.44、打率.263、OPS.700、本塁打19、失点率4.20、先発防御率3.58、QS率55.6%、救援防御率3.39
・西武:11勝15敗
得点率3.00、打率.232、OPS.622、本塁打12、失点率3.52、先発防御率2.95、QS率61.5%、救援防御率4.05
・ソフトバンク:10勝14敗
得点率4.00、打率.251、OPS.704、本塁打23、失点率4.14、先発防御率4.05、QS率41.7%、救援防御率3.23
8月のオリックスは貯金9。26日には優勝へのマジックナンバーも点灯させた。得点率はリーグワーストだったが、投手力がカバーした。特に8月17日から24日まで7試合連続で1失点以下を記録している。
ノーノー達成した鷹・石川を上回ったオリ宮城
そんなパ・リーグのセイバーメトリクスの指標による8月の月間MVP選出を試みる。投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。上位ランキングは以下の通りとなった
・宮城大弥(オリックス)RSAA6.58、登板5、イニング34回2/3、防御率1.30、WHIP0.98、奪三振率8.05、QS率100%、HQS率40%
・石川柊太(ソフトバンク)RSAA5.52、登板4、イニング27回1/3、防御率1.98、WHIP0.77、奪三振率8.56、QS率75%、HQS率25%
・伊藤大海(日本ハム)RSAA4.49、登板4、イニング28回1/3、防御率1.91、WHIP0.99、奪三振率6.99、QS率75%、HQS率75%
・山本由伸(オリックス)RSAA4.15、登板4、イニング26、防御率0.00、WHIP1.12、奪三振率7.27、QS率75%、HQS率75%
・隅田知一郎(西武)RSAA4.11、登板4、イニング28回1/3、防御率3.18、WHIP、1.02、奪三振率8.89、QS率50%、HQS率50%
・平野佳寿(オリックス)RSAA3.93、登板11、イニング10回2/3、防御率0.84、WHIP0.94、奪三振率6.75、7セーブ、2ホールド、1勝1敗
・山下舜平大(オリックス)RSAA3.63、登板3、イニング18回2/3、防御率0.96、WHIP1.02、奪三振率9.64、QS率67%、HQS率33%
・平良海馬(西武)RSAA3.43、登板4、イニング27、防御率2.67、WHIP1.19、奪三振率9.33、QS率75%、HQS率75%
・東晃平(オリックス)RSAA3.37、登板3、イニング17回2/3、防御率1.02、WHIP0.91、奪三振率8.15、QS率33%、HQS率33%
上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。
・澤田圭佑(ロッテ)RSAA3.29、登板7、イニング6回2/3、防御率0.00、WHIP0.15、奪三振率9.45、3ホールド、1勝
・則本昂大(楽天)RSAA2.94、登板4、イニング28回2/3、防御率1.88、WHIP1.01、奪三振率5.34、QS率100%、HQS率50%
RSAA上位9人中5人がオリックスの投手。その中で最もチームに貢献した投手は4年目の22歳の宮城である。5試合に先発登板し、すべての試合でQSを記録。HQSも2試合記録している。完封勝利を挙げた8月24日の西武戦では変化球のキレが良く、スライダーで23%、フォークで32%の空振りを奪った。8月18日にノーヒットノーランを記録した石川とRSAAで競ったが、宮城をセイバーメトリクス目線で選ぶ8月のパ・リーグ月間MVPに推薦する。
突出した数値残す近藤健介…備わった長打力
打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。wRAAの上位ランキングは以下の通りとなった
・近藤健介(ソフトバンク)wRAA14.73、101打席、OPS1.195、打率.365、本塁打7
・中川圭太(オリックス)wRAA8.12、106打席、OPS.954、打率.316、本塁打5
・グレゴリー・ポランコ(ロッテ)wRAA7.46、111打席、OPS.940、打率.294、本塁打8
・頓宮裕真(オリックス)wRAA6.50、104打席、OPS.904、打率.322、本塁打4
・アリエル・マルティネス(日本ハム)wRAA5.44、85打席、OPS.916、打率.306、本塁打2
・野村佑希(日本ハム)wRAA5.34、103打席、OPS.875、打率.301、本塁打4
・今宮健太(ソフトバンク)wRAA4.71、92打席、OPS.844、打率.310、本塁打3
・阿部寿樹(楽天)wRAA4.23、72打席、OPS.882、打率.339、本塁打1
上記のランキングに掲載されていないチームのRSAA上位の選手は以下の通り。
・栗山巧(西武)wRAA3.15、37打席、OPS.978、打率.296、本塁打2
8月のパ・リーグで最もwRAAが高かったのは近藤。月間打率.365、安打数31、OPS1.195、出塁率.465、長打率.729はすべてリーグ1位、7本塁打はリーグ2位だった。近藤は6月、7月のwRAAはリーグ2位で、月間OPSも1を超えていた。今季は長打力も備わり、リーグ最強打者と言えるほどの数値を記録している。ホークス打線の核として活躍した近藤を8月の月間MVPパ・リーグ打者部門に推薦する。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。