侍J女子のレジェンドがこぼした涙 W杯“3大会連続MVP”の右腕が背負う日の丸の重み

侍ジャパン女子代表・里綾実【写真:喜岡桜】
侍ジャパン女子代表・里綾実【写真:喜岡桜】

W杯3大会連続MVPの里綾実…2試合4イニングを投げて無失点に抑えた

 侍ジャパン女子代表は、広島県で行われたカーネクスト presents「第9回 WBSC女子野球ワールドカップ・グループB」を5戦全勝で首位通過。2024年にカナダ・サンダーベイで行われるファイナルステージで7連覇を狙う。前回まで3大会連続でMVPに輝いている里綾実投手(西武レディース)は今大会2試合に登板して計4イニングを無安打無失点。貫禄の投球を見せた。

 6度目の日本代表入りを果たした右腕には、名実ともに世界最高峰の女子選手になった今も忘れられない光景がある。日本が悲願の初優勝を手にした2008年、愛媛県松山市で行われた第3回W杯でできた“歓喜の輪”だ。この時のメンバーに里の名前はない。最終選考で漏れてしまったのだ。「次は絶対に自分が選ばれて、今度はスタンドから応援しているんじゃなくて、“あの場所”にいるって決意をして」と、ほろ苦い思い出を振り返る。

 だが、その表情には笑みが見えた。決意から2年後に目標は現実になり、15年経った今も“あの場所”に立ち続けているからだ。すっかり日の丸のユニホームが板についたが、「大会が毎年あるわけではないし、誰でも選ばれるわけではないので、やっぱり自分の中では大切なユニホームです」と襟を正す。

 5年ぶりのW杯開催。相手国も“里対策”に乗り出していたはずだが「研究するとすれば、前回大会の映像を見ていると思うんですけど、私も私なりにレベルアップしているつもりです。海外の選手もだいぶ若返って、レベルも高くなっていると思いますが、簡単に打たれないようにしたいですね」と悠然と構えていた。その言葉通り、ベネズエラ戦とキューバ戦にクローザーとして登板し、それぞれ2イニングを投げ、きっちりと無安打無失点に抑えた。

笑顔を見せる侍ジャパン女子代表・里綾実【写真:喜岡桜】
笑顔を見せる侍ジャパン女子代表・里綾実【写真:喜岡桜】

代表から漏れた2008年W杯は「成長に直結した大きな出来事」

 中島梨紗監督が大会のテーマとして掲げていた『磨いて輝く』は、まさに里の日本代表人生にふさわしい言葉だ。マウンドに立つ里から溢れるオーラは、代表チーム最年長の33歳になった今も圧倒的なものがあった。グループBを戦い終え、2008年に経験した代表漏れを「成長に直結した大きな出来事でした」と改めて振り返る。「当時は自分に自信がありませんでした。それでも野球をすることで自分らしくいられたんです」。その声は微かに震えていた。

 初めて代表入りを果たした2010年以降もいろんな壁にぶつかっただろう。そのたびに自分を磨き、困難を乗り越え、輝きを増してきた。代表漏れから15年経った今、「私のプレーを見て元気や勇気をもらったとか、生き甲斐だと言ってくれる人がすごくたくさんいる」と言う。大会最終日の17日のキューバ戦はすでにファイナルステージ進出を決めたあとの一戦だったが、多くの観客がスタンドを埋め、大声援を浴びながら2三振を奪った。試合後には快く写真撮影やサインに応じた。

「好きでやっていたことが今、誰かのためになっているってことがすごく嬉しくて。これからも野球を頑張れたらなと思います」。そう話し終えると、晴れやかな笑顔から一粒の涙がこぼれた。里がこれまで過ごしてきた15年の喜怒哀楽が凝縮された一滴。終着点はここではない。来年行われるファイナルステージに向けて、レジェンド右腕はさらに輝きを増す。

(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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