「一緒に戻ってきたかった」 同時にトレードの恩人へ…西武26歳が放った惜別弾

日本ハム戦で2号を放った西武・佐藤龍世【写真:矢口亨】
日本ハム戦で2号を放った西武・佐藤龍世【写真:矢口亨】

9月に入ってから全試合出塁し打率.367、出塁率.530

■西武 4ー1 日本ハム(20日・ベルーナドーム)

 西武は20日、本拠地ベルーナドームで行われた日本ハム戦に4-1で勝利。9月に入ってから打撃絶好調の佐藤龍世内野手が「5番・三塁」で出場し、4回に先制2号2ランを放った。この日は、2021年8月にトレードされるまで、西武で足かけ15年間活躍していた日本ハム・木村文紀外野手の引退試合。木村を兄貴分として慕う佐藤龍は「涙をこらえるのに必死でした」と吐露した。

 両チーム無得点で迎えた4回。1死二塁で第2打席に立った佐藤龍は、日本ハム先発の左腕・上原健太投手に対し、初球の内角低めのスライダーを空振り。勢いあまって右膝をついたほどのフルスイングだった。2球目のストレートを見送った後、3球目に再び真ん中低めへスライダーが来た。今度は手元まで引き寄せ、すくい上げた打球は左翼フェンスを超えていった。「前の打席が1球も振らずに四球だったので、初球から行こうと思っていました。結果的に、初球を振れたから(スライダーの)タイミングを計れたのかなと思います」と理路整然と説明した。

 9月に入ってから驚異的な打棒を振るっている。全16試合にスタメン出場し、全試合で出塁。打率.367(49打数18安打)、出塁率は.530に達している(20日現在)。ただ、本塁打はシーズンを通して2本目。松井稼頭央監督は「本塁打はイメージしていなかった。もともと相手にとって嫌な打者ですが、ああいう一発まであるとなると……」と目を丸くし、「でも、あまり欲張りすぎないように、本人に言っておきます」と笑わせた。

 佐藤龍自身にとっても大切な試合だった。「すごくお世話になった人の特別な試合で結果を出せて、これからもっと頑張るぞ、というところを少し見せられたかなと思います」と感慨深げだ。2021年8月、シーズン中に西武と日本ハムの間で2対2のトレードが成立し、佐藤龍は8歳上の木村とともに日本ハムへ移籍。代わりに日本ハムから平沼翔太内野手と公文克彦投手が西武に加入した。そして昨季終了後、佐藤龍は山田遥楓内野手とのトレードで西武に復帰し、木村は日本ハムに残った。

両軍から胴上げされた日本ハム・木村文紀【写真:矢口亨】
両軍から胴上げされた日本ハム・木村文紀【写真:矢口亨】

「時に優しく、時に厳しく接していただいたお陰で、今の自分がある」

「僕も木村さんもライオンズが大好きだったので、最初は寂しい気持ちでしたが、2人で頑張ろうと話し合いました。僕は木村さんがいなかったら腐りそうなこともありましたが、時に優しく、時に厳しく接していただいたお陰で、今の自分があると思います」と佐藤龍。「僕だけがライオンズに戻って来て……できることなら、一緒に戻って来たかったです」と複雑な胸の内も垣間見せた。

 木村はこの日「4番・右翼」でスタメン出場し、4回の第2打席で左翼線二塁打。その後、三塁に進塁した際、佐藤龍と言葉を交わした。「頑張れよ、と言って下さって、僕は涙をこらえるのに必死でした」と佐藤龍は明かす。

 長い野球人生の中で、木村と佐藤龍は約1年半にわたって、誰よりもお互いの気持ちを理解し合える間柄だった。35歳で第二の人生へ踏み出す木村。26歳でレギュラー獲りの大チャンスを手繰り寄せた佐藤龍は、恩人の思いも胸にバットを振り続ける。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY