戦力外→離婚、家売却、収入10万円…「社会は甘くなかった」這い上がった怒涛の1年

昨季まで中日でプレーした滝野要氏【写真:小西亮】
昨季まで中日でプレーした滝野要氏【写真:小西亮】

元中日の滝野要さんを救った「掃除のやり方、教えますよ」

 バットを振ってマメだらけだった手のひらは、1年経ったいま、洗剤で荒れてガサガサになっている。働く証しが刻まれた手元を見つめる表情は、偽りなく明るい。昨年10月に中日から戦力外を通告された元外野手の滝野要さんが、穏やかに言う。「今は前を向けていると思います」。プロ野球生活を終えた先に待っていたのは、怒涛の日々だった。

 身長185センチの元プロらしい体躯を軽バンに押し込め、東京や埼玉などを駆け回る。向かう現場は、住人が退居したマンションやアパート。原状回復の清掃業務に汗を流す。9月に上京したばかり。「いろんな汚れに応じた薬品や作業のやり方を覚えることが大変です。もう少しで、一人で任せてもらえるようになりそうです」。毎日ヘトヘトになり、床に就く。

 4年間のプロ生活で、1軍出場は59試合。体調面の不安もあり、昨秋に戦力外となった後は潔く身を引いた。すぐにYouTubeチャンネルを開設し、あけすけに思いを語るキャラクターが好感を呼んだ。配信の収益は月数十万円に上った時期もあったが、本業にするつもりも自信もなかった。

 追い風はすぐにやみ、収入は一時、月10万円程度までに落ち込んだ。「社会は甘くなかったですね」。厳しい現実に、頬を叩かれたようだった。私生活でも大きな変化を迫られた。離婚という決断を下し、2年前に購入したばかりの名古屋市内のマンションを売却。心もとない収入では、ローン返済は大きな重荷だった。

 生きていくため、選ばなければいけないセカンドキャリア。知人やYouTubeで存在を知ってくれた人たちから、様々な声をかけてもらった。不動産や保険の営業、農業関係、運送業……。ありがたかったが、自分の思いに素直に従うことにした。「もともと掃除が好きで、汚れたものを綺麗にすることは嫌いじゃなかったので」。今年1月、YouTube動画で「清掃事業を始めます」と宣言。技術もツテもないただの勢いだったが、これがひとつの縁を呼んだ。

捨てぬ貪欲さ「野球をやめても、これだけ稼げるんだと思いたい」

「掃除のやり方、教えますよ」

 SNSにダイレクトメッセージが届いた。関東でハウスクリーニングなどを請け負う「株式会社ワザビト」(東京・港区)の代表から手を差し伸べてもらい、修業の身に。当初は基本的な技術を身につけたらすぐに独立しようと思っていたが、業務の難しさと奥の深さに翻意した。「自分にしっかりした技術がないと、スタート地点にも立てないなと」。この秋から社員として迎え入れてもらい、生まれ育った東海地方を離れた。

 汚れを落とし、磨き上げ、部屋の隅々まで目を凝らす。「ホコリひとつ残さないように。どんなに汚い部屋でも関係ないですからね」。少しでも仕事が粗ければ、管理会社の信頼を失いかねない。技術を突き詰め、必要な場面で発揮するのは、どこか野球に似ているような気もする。事業拡大を目指す会社に恩返しするためにも、いずれはYouTubeで家庭の掃除に役立つ情報も発信していきたいと思いを膨らませる。

 もうプロ野球に未練はないが、わずかに嫉妬のような気持ちが迫り上がってくることはある。「活躍している選手を見ていると、年俸いくらもらってるんだろうとか、いい車に乗ってるんかなとか……」。届かなかった、きらびやかな世界。とはいえ、2軍が主戦場でもサラリーマンの平均年収より優に高い年俸をもらっていたのも事実。「野球をやめても、これだけ稼げるんだと思えるようにはなりたい」と貪欲さは捨てない。

 戦力外から、はや1年。目の前の一日に必死で、あっという間に季節はひと回りした。輝けなかったプロ人生、厳しさを知った引退後から「やり返したいと思っています」。まだ27歳。ひとつひとつの部屋を綺麗にした分だけ、未来を見定める視界もクリアになっていくはずだ。

【プロ野球戦力外通告男の末路】家を売ることに…

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