“ドラ1”の重荷に「このままでは終わる」 オリ左腕が恩師と二人三脚で掴んだ勲章

オリックス・山崎福也【写真:荒川祐史】
オリックス・山崎福也【写真:荒川祐史】

今季は11勝、防御率3.25、130回1/3とキャリアハイの成績を残す

 誰もが認めるエース左腕に成長した。オリックスの山崎福也投手はレギュラーシーズン最終登板となった7日のロッテ戦(ZOZOマリン)で6回1失点の好投を見せ、自己最多となる11勝目をマークし、防御率3.25、投球イニング130回1/3もキャリアハイ。プロ入りから9年の月日を経て手にした“勲章”は、これまでの苦労を乗り越えたからこそ格別だった。

「シンプルに嬉しかったです。一昨年は8勝で去年は5勝。なかなか勝てなくて。苦しいというか、自分自身にストレスもあったので」

 2014年ドラフト1位で明大から入団。即戦力として期待された。だが、ルーキーイヤーの2015年は17登板(12先発)で3勝6敗、防御率5.46。その後は1軍と2軍を往復する日々が続く。2017年には5月26日のロッテ戦(ZOZOマリン)で3回途中4失点KOされ、試合途中にも関わらず千葉から大阪へ“強制送還”を命じられ涙を流したこともあった。

 思うような結果を残せないまま、4年目の2018年には背番号「17」から「0」に変更。「背番号の横に1をつけられるぐらい、勝てるように」と意気込んだが、シーズンで自身初の0勝に終わり、どん底を味わった。試合序盤は最高のスタートを切ったかと思えば、突如崩れる悪癖が何度も顔を出す。“ドラ1”の肩書は日を増すごとに重荷となっていった。

オリックス・山崎福也【写真:荒川祐史】
オリックス・山崎福也【写真:荒川祐史】

転機となった2019年、中嶋監督との出会い「自分が一番苦しい時期に」

「何かを変えないとまずい。自分自身を見つめ直さなければこのまま終わる。徹底的に体をいじめぬくしかない」

 それまでほとんど行っていなかった筋力トレーニングに重点を置き、食事を改善してプロテインも導入した。肉体改造に着手し、体重は約9キロ増量。モデルのような細身の体型は激変し、140キロ前半だった直球も今では149キロをマークするほどになった。

 さらに転機となったのは2019年。当時の中嶋聡2軍監督との出会いだった。キャッチボールの段階からフォームの修正など、これまで積み重ねてきたことをリセットしてゼロからスタート。「自分が一番苦しい時期に監督になって。付きっきりで練習に付き合ってくれた」と感謝する。

 2021年に1軍監督に就任すると自身も先発ローテに定着し、リーグ3連覇を支えた。9月27日のソフトバンク戦(京セラドーム)では自身初の2桁勝利に到達。9勝目を挙げてから足踏みが続き、5度目の挑戦で掴んだ待望の勝利に「ちゃんとした勝ちで決めたかった。苦しい時に支えてくれた中嶋監督の前での10勝は嬉しかった」と、照れくさそうに笑った。恩師と二人三脚で掴んだシーズン10個目の白星は特別なものになった。

 今年8月には国内FA権も取得。「今はシーズンに集中するだけ」と、結論はポストシーズン後になる見込み。3年連続で投手4冠を手にした山本由伸は今オフにメジャー移籍が濃厚なだけに、ファンにとっては左腕エースの動向は気がかりだろう。だが、苦労して掴んだ実績と権利。背番号「0」時代に誓った2桁勝利を有言実行した左腕の努力を今は心から喜びたい。

○著者プロフィール
橋本健吾(はしもと・けんご)
1984年6月、兵庫県生まれ。報徳学園時代は「2番・左翼」として2002年に選抜大会優勝を経験。立命大では準硬式野球部で主将、4年時には日本代表に選出される。製薬会社を経て報知新聞社に入社しアマ野球、オリックス、阪神を担当。2018年からFull-Countに所属。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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