西武の逸材23歳が“覚醒間近” 内海哲也コーチとの運命…最終日に起きた奇跡

巨人戦に先発した西武・渡邉勇太朗【写真:宮脇広久】
巨人戦に先発した西武・渡邉勇太朗【写真:宮脇広久】

9回1失点…こだわった完投「ファームで9回くらい投げ切らないと」

 西武の23歳右腕が“覚醒”間近だ。渡邉勇太朗投手が11日、宮崎で行われている「第20回みやざきフェニックス・リーグ」の巨人戦に先発し、完投勝利を挙げた。9回2死まで無失点、無四球の好投を披露。最終回で初めて四球を許し、その後に1失点したものの、落ち着いたマウンドさばきで非凡な才能を発揮した。

 来年こそ1軍の先発ローテーションを狙う渡邉は、巨人打線を6安打に抑え込む投球。初回から打たせて取るピッチングで、顔色ひとつ変えることなく、9イニングを投げ切った。「ファームで9回くらい投げ切らないと1軍でも通用しないので。そこはこだわっています」と、自分の課題を語る。先発する以上、誰にもマウンドは渡したくない。そんな強い意志に語気を強める。

 昨季は1軍で3試合に登板し、1勝1敗、防御率6.08と満足いく結果は得られなかった。今季も、肩の負傷で出遅れた。それでもファームで調整を続け、9月20日の日本ハム戦(ベルーナドーム)で今季初登板を果たし、初勝利をつかんだ。

 西武の完投数10は、今季パ・リーグで唯一の2桁。そんな投手陣に割って入るには、完投するだけのスタミナは必須条件のようにみえる。大石達也ファーム投手コーチは「1軍レベルで投げてほしい選手。(スタミナの)壁をブチ破るためにもファームでは9回投げ切ってほしい」と大きな期待を寄せる。それでも「1軍で先発完投してほしいというわけじゃない」と、あくまで投げすぎによる怪我を一番に心配する。責任感の強い選手だからこそ、手綱はしっかりと握る。

最後の日に起きた内海コーチとの“奇跡”

 キャンプ明けから春先にかけて肩の怪我も経験した。「不安もあったんですけど、そこで自分を見つめ直してフォームの改良もしました」。さらに昨年92キロだった体重も101キロまで少しずつ増やし、ストレートも強化された。「強い真っすぐで、甘くてもいいからストライクを投げる。そういうことができるようになりました」と自信をのぞかせる。

 強く意気込む渡邉の心を、さらに突き動かす出来事があった。10月6日、内海哲也ファーム投手コーチが今季限りで退団することが発表された。内海コーチが2022年に兼任コーチとして指導を始めてから、今季まで師匠と弟子のような関係性を築いてきた。急な別れとなったが「頑張れよ」と一言をもらった。これだけで十分だった。

 ただ、それが最後ではなかった。「内海さんが本当に最後に球場を出ていく日に、たまたま鉢合わせて……。連絡を取っていたわけではないのに」。運命としか考えられない、“奇跡”のタイミングに思わずお互い抱き合った。「もってますね」と、興奮気味に話す表情からは2人の深い絆が伝わった。

「交流戦でやれるのが一番いいですね」と、プレーでの恩返しを誓う渡邉の言葉は力強い。“2人”の投手コーチから大きな期待をかけられる、未来のエース候補。フェニックス・リーグで鍛錬を積み、来季は恩返しを――。今日も努力を続ける理由がある。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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