社会人断ったのに「やばいかも」 よぎった“指名漏れ”…笑顔が消えた1時間半

指名された瞬間の青学大・中島大輔【写真:川村虎大】
指名された瞬間の青学大・中島大輔【写真:川村虎大】

青学大・中島大輔は社会人の誘いをすべて断りプロ1本

 最初の指名が始まってから約1時間半後、名前が呼ばれると、場内からはどよめきと大歓声が沸き起こった。楽天から6位指名を受けた青学大・中島大輔外野手は「ホッとしました」と胸をなでおろした。

 ドラフト会議が始まる前、中島の笑顔は少し引きつっていたように思えた。「2人は1位なんで(笑)。記者さんの仕事の時間が伸びないように早く指名されればいいですけど……」。配慮を見せながらもどこかソワソワしていた。

 今年、青学大から志望届を出したのは、常廣羽也斗投手と下村海翔投手、中島の3人。常廣は12球団で最初に広島が1位指名を公言。下村もドラフト会議直前に阪神が1位で指名すると報道された。チームメートの1位指名が“確約”されている中、自分に来ていた調査書は2人の半分の6球団。焦りがないわけなかった。

 社会人チームからの誘いは全て断りを入れた。大学の方針もあったが、「プロを本気で目指すなら、覚悟を持って1本にしようと」。退路を断って運命の日を迎えた。しかし、会議が始まっても中島の名前は一向に呼ばれず、刻一刻と時が進んでいった。会見場では1位指名を受けた2人の会見や取材が行われ、祝福ムードだったが、中島はそれどころではなかった。

チームメートに祝福される様子【写真:川村虎大】
チームメートに祝福される様子【写真:川村虎大】

5巡目で指名終了の球団も…隣にいたチームメート「だんだんと笑顔が消えた」

 そんな中島の隣に座ったのは同期の副将・中野波来外野手だった。同じ外野手で寮も同部屋。主将の中島を支えてきた。開始直後は「次は中島」というムードだったが、変化があったのは5巡目が終わったころからだった。中野は「だんだんと笑顔が消えて。中島が『やばいかも……』って。励まそうとしましたけど、なんて声かけていいか正直分からなかったです」と振り返る。指名終了の球団も増え、「指名漏れ」の現実が近付いていた。

 中島への吉報は不思議なタイミングで届いた。広島・新井貴浩監督が1位指名の常廣羽也斗投手への指名あいさつで来校。インタビュー中に名前が呼ばれた。チームメート全員が大はしゃぎで、隣にいた中野も「おめでとう! おめでとう!」と肩をたたいた。中野は「同部屋だったので、指名されなかったら気まずかったので(笑)。本当に良かった」と喜んだ。

 そんな中島に、新井監督も粋な計らいを見せた。「中島くん、楽天入団おめでとう! 交流戦で会おう!」と他球団の監督が“異例のエール”。中島は嬉しそうに会釈で返すと、その後の会見では「(指名の)タイミングが良かったですね」。下位指名を“自虐ジョーク”にできるほど、表情も明るかった。

 同期2人はドラフト1位で、自らはドラフト6位。立場やチャンスの数も同じではないことは十分わかっている。「逆に不安になってきましたけど、ここからが勝負なので」。必ず、這い上がって見せる。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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