“無敗の男”が忘れないKO劇場 侍打線に2回7失点「1番アカン投球」が呼んだ覚醒

オリックス・東晃平【写真:矢口亨】
オリックス・東晃平【写真:矢口亨】

オリックス・東晃平、3月の侍ジャパン強化試合で2回7失点KO「忘れないですね」

 バクバクの心臓は、もう経験していた。オリックスの東晃平投手は10月31日、甲子園で行われた阪神との「SMBC日本シリーズ2023」第3戦の先発マウンドを任され、5回81球5安打1失点と好投し、白星を掴んだ。1点リードの9回2死一、二塁から守護神の平野佳が大山を空振り三振に仕留めて5-4で勝利。東は三塁側ベンチで飛び跳ねて喜んだ。

 育成出身投手として球団初となる日本シリーズの先発マウンドを託された23歳。昨年8月にプロ初勝利を挙げ、ブレークを果たした今季は6勝0敗、防御率2.06。デビューから7連勝を果たし“無敗の男”として大舞台に臨んだ。

「負けないのは嬉しいですよね。でも、僕は(今年の)春、苦い思いをしたので、やっぱり覚えていますよね。あの時のマウンドは忘れないですね」

 記憶に刻まれているのは、3月7日に先発登板した「侍ジャパン」との強化試合だった。初回に昨季まで同僚だった吉田正尚外野手(レッドソックス)に先制打を許すと、ヤクルト・村上に3ランを浴びた。2回には満塁から吉田に走者一掃の適時三塁打を打たれ、2回7失点でKOされた。

 開幕ローテーション入りを目指す中での“失敗”に「振り返ってみても、四球が全てだと思うんですよ。今までで1番アカン投球やった。自分が、思っている以上の力を出そうとしたんです。打たれたらダメと思い込んで、ボール球が続いたり、狙ったところに投げられなかったり……1番ダメなパターンやったんで。どこか(気持ちを)変えないと、という試合でしたね」と歯を食いしばった。

ずっと欲しかったスニーカー「ようやく手に入れることができました」

 開幕時には救援で1軍切符を掴んだが、4月9日に出場選手登録を抹消された。再登録は7月30日で約4か月、ファームで鍛錬を積んだ。「今思えば、良い時間でしたよ。変な焦りはなかった。だから(舞洲を)思い出すことはあんまりないですね。ただ、舞洲でやってきたことが今、こうやって(結果で)見せていけているのは嬉しいですね」。2017年育成ドラフト2位。支配下選手になるまで5年を要したが、悔しさを押し込んで、ニコリと目を細める。

 ファーム生活に慣れた苦労人は、1軍の舞台で戸惑うこともあった。ドーム球場での登板は「最初ちょっと苦手な感じがあったんですけど、今は全然大丈夫です。普段(屋根が)なかったんで難しい感じがしていましたけど……ナイターもそうですね(笑)」。1軍生活を心から楽しむ。

 運だけでは、人生は前に進めない。勝ちを重ねるには理由がある。今季の飛躍には「ストライクゾーンで勝負できるようになった。今までなら、もっと球数も重なっていたと思う。試合経験が増えて、心の余裕が少し出てきたと思います」と冷静に分析。かつてはオンラインゲームが趣味だった23歳は最近、自身に“ご褒美”を与えた。

「こないだ、そーいち(山崎颯)と買い物に行ったんです。服とか靴とか、好きなんですけど、僕はインドア派なので、誘われた時に(ショッピング)に行くパターンが多いですね」

 人生で初めて、財布の紐を緩めた。「ずっと欲しかったスニーカーが、たまたま売っていたんです。ようやく手に入れることができました(笑)」。昨季途中に育成から支配下選手登録された右腕の推定年俸は800万円。給料のおよそ1/50を使い「良いのが買えました。かっこいいっす」と微笑む。

 この日はプロ初の打席にも立ち、5回に走者として本塁に生還した際はピョンピョン跳ねた。「頑張って活躍したら、少しずつ認めてもらえる。楽しいですよ、今、すごく」。“負けない男”は自然体で生きるからこそ、強くなれる。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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