客前での“懲罰”「今だったらあり得ない」 攻撃中ずっとウサギ飛びの鬼指令

元中日・今中慎二氏【写真:山口真司】
元中日・今中慎二氏【写真:山口真司】

試合で登板しているのに攻撃中にウサギ跳び…今中慎二氏が振り返る高校時代

 ハンパじゃない厳しさだった。元中日投手で野球評論家の今中慎二氏は大産大付大東校舎(現大阪桐蔭)時代、山本泰監督に徹底的に鍛えられた。1978年夏にPL学園を全国制覇に導いた指揮官。「1年の時は何をやっても怒られなかった。先輩にお前がいると監督の機嫌がいいなって言われるくらい。それが2年の春から変わったんです」。猛烈なウサギ跳び指令もあれば、信じられない1000本ダッシュ指令も……。「山本監督は星野(仙一)監督以上でしたね」と今中氏は言い切った。

「今だったら絶対あり得ない。体罰みたいなものですから」と前置きして今中氏は当時のことを振り返った。「大会で、最終的には14-4で5回コールド勝ちしたんですが、試合中に監督は2アウトから点を取られたことをめっちゃ怒って、レフトまでウサギ跳びで行ってこいって言われたことがありましたね」。味方打線が攻撃している間はウサギ跳びして、守りになるとマウンドに上がって投げるというからすさまじい。

 しかし「お客さんとか親が見ている大会でのウサギ跳びが前代未聞だったんです。練習試合ではよくあること、点を取られてウサギ跳びなんてしょっちゅうでしたよ。そういう時代でしたから。以前はポールまで走って来い、だったんです。走るくらいだったら、いいですけど、ウサギ跳びはきついですよ。マウンドまでウサギ跳びで行けもありましたからね。相手チームはどう見ているのかなって思いながらやっていましたけどね」。

 午前と午後に2試合組まれた練習試合では「1試合目に先発して2、3点取られてレフトの奥で1000本ダッシュしとけって言われたこともあった」という。「昼飯も食べずに走った。ベンチから丸みえだから、早く監督が飯に行かないかなって思いながらね。やっと監督が飯に行って戻ってきたら終わりだろうと思ったら『何本や』って聞かれただけ。2試合目の5回くらいに伝令がきて『監督が飯食えって言っている』って。監督のところに行ったら『残りは試合、終わってからや』って」。

 そういうのが当たり前のようにあった。「1点取られたら駄目、10-1で勝っても駄目なんです。だから、プロの練習の方が楽だったですよ」と今中氏は苦笑した。しかしながら、山本監督が今中氏が2年になってからより厳しくなったのには理由も感じたという。「1年の冬、(1987年)2月に母が亡くなった。それを基点に厳しくなったんです」。落ち込む今中氏を奮い立たせるように、敢えて山本監督はより鬼になった。そう思えば納得できる部分もあるそうだ。「よく言われたんですよ。母親のことをね。てめえがそんなんじゃあ、ってね」。

高1の冬に母親が他界…一緒に買い物をしていた最中に倒れた

 母の死は突然のことだった。「俺が(寮からの)外出日で連絡もせずに朝、8時半くらいにふっと家に帰ったんです。母に『何あんた』って言われて『今日、外出日、ちょっと寝る』って言って寝ていたんです。それで昼前くらいに買い物に付き合ってって言って市場に行って、その時に母が倒れたんです。救急車を呼んでもらって、最初は大丈夫って話だったんで俺は帰ったんだけど、夜中2時くらいかな、電話があって慌てて病院に行ったけど、駄目だった。クモ膜下で……」。

 今中氏は「あの時、一緒にいたし、俺が市場に行かなかったら、どうなっていたんだろうっていうのは思いましたよね。母は旅行が好きだった。近所のおばちゃんとよく行っていたけど、疲れていたんだろうね、血圧も高かったし……」と寂しそうに話した。それこそ、当時はどれほど精神的に参っていたか、落ち込んでいたか。山本監督はお通夜から来てくれた。告別式には野球部の仲間も来てくれた。

 もちろん、だからといって令和の今ではアウトになるくらいに厳しく指導するのが肯定されるわけではないが、そういう時代だったのも事実。そして今中氏が「きついなぁ」と思いながら、そういうふうにも受け止めていたのもまた事実だ。とにかく鍛えられた大産大付時代。やり方はどうあれ、それを乗り越えて今中氏はプロ注目の投手になっていき、1988年のドラフト1位で中日に入団するまでになった。

「おかんは俺がプロ野球選手になるなんて絶対思ってないよ」。厳しさあり、優しさあり、悲しみあり……。あの星野監督の上を行く山本監督の超ハードな指導の思い出とともに、亡き母を思い出す。それは今中氏にとって、永遠に続いていくことだろう。「監督にはよくブチ切れられたけどね。2年(1987年)の秋にベスト8で近大付にコールド負けした時はスタンドまで監督の声が聞こえるくらいだった」などと言いながら……。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY