日韓の明暗分けた“技術” 打率.455を交代…勝負手にOB感服「メンタルやられる」

韓国戦で送りバントを決めた侍ジャパン・古賀悠斗【写真:荒川祐史】
韓国戦で送りバントを決めた侍ジャパン・古賀悠斗【写真:荒川祐史】

無死一、二塁から始まるタイブレークで動く「すごく勇気のいる采配」

「カーネクスト アジアプロ野球チャンピオンシップ 2023」の決勝戦が19日に東京ドームで行われ、野球日本代表「侍ジャパン」は韓国に延長10回タイブレークの末、4-3でサヨナラ勝ち。2017年の第1回大会以来の2連覇を達成した。結果的に勝敗を分けたのは、送りバントの成否。専門家は今後改めて、タイブレークの戦術と準備が大事になると見る。

 試合は2-2のまま、無死一、二塁から各イニングの攻撃を始めるタイブレーク方式の延長戦に突入した。10回に1点を取られ、その裏の攻撃を迎える。井端弘和監督はここで、先頭打者の3番・森下翔太外野手(阪神)の代打に、古賀悠斗捕手(西武)を起用する勝負手を打った。役割は“ピンチバンター”。今大会打率.455の猛打を振るっていた森下をあえてベンチに下げ、今回の侍ジャパンで最多の今季17犠打をマークしていた古賀に任せた。

 現役時代にヤクルト、日本ハムなど4球団で捕手として活躍した野球評論家の野口寿浩氏は「自分がクリーンアップを任せた森下を、タイブレークだからといって代えなければならなかったのは、すごく勇気のいる采配だったと思います」と井端監督の心中を察する。

 古賀が初球の真ん中高めの速球をバントすると、ボールは本塁ベース付近で高く弾み、走者を二、三塁に進める格好の犠打となった。野口氏は「決勝戦で、1点ビハインドで、無死一、二塁。いくらバントがうまくても、あの重圧のかかる場面で決めるのは、とんでもないことです。一塁手がチャージをかけてきていたので、下手に転がしていれば、走者が三塁でフォースアウトになっていたかもしれません。1発で決めたのはすごい、本当にすごいですよ」と感嘆した。

 このバントをきっかけに、4番の牧秀悟内野手(DeNA)が申告敬遠で歩かされた後の1死満塁で、坂倉将吾捕手(広島)が中犠飛を打ち上げ同点。さらに万波中正外野手(日本ハム)が歩かされ、2死満塁で門脇誠内野手(巨人)が左前へサヨナラ打を放った。

「アジチャン」連覇を果たして勝利に湧く侍ジャパン【写真:荒川祐史】
「アジチャン」連覇を果たして勝利に湧く侍ジャパン【写真:荒川祐史】

「練習で100回成功するより、試合で1回成功する方がうまくなるのがバント」

 対照的だったのは、10回の韓国の攻撃である。先頭のキム・ドヨン内野手は初球に送りバントをファウルにし、2球目にはバットを引いて見送った外角高めの149キロ速球をストライクと判定され、あっという間にカウント0-2と追い込まれた。3球目に強攻に切り替えると、最悪の遊ゴロ併殺打。続く3番のユン・ドンヒ外野手が中前適時打を放ち、1点はもぎ取ったものの、仮に送りバントが決まっていれば、もう1点多く入っていたかもしれないのだ。

「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や五輪のような大舞台だったら、メンタルをやられますよ。だから侍ジャパンに選ばれる可能性のある選手は、常日頃からバントをしっかり練習しておかないとね、という話ですよ」と野口氏。「ただ、練習で100回成功するより、試合で1回成功する方がうまくなるのがバントです。ですから古賀はもう、バントとメンタルには自信を持っていいかもしれないです」と付け加えた。

 今年3月のWBCでは、日本は1度もタイブレークを経験しないまま優勝したが、同大会のタイブレークは無死二塁から開始するルールだった。侍ジャパンは来年11月にプレミア12、2026年には次回のWBCが控えている。どんな状況から始まるかによっても違うが、バントの重要性は高くなりそうだ。

「打つ方も守る方も、直前合宿などでタイブレークの練習をしておくことが非常に大切だと、再認識させられました」と野口氏。NPBのレギュラーシーズンにないルールが勝敗を分ける恐ろしさを、古賀は身をもって知らしめた。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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