西武に残れても「あと1年くらいかな」 兄貴分が語る涙の電撃退団「いい選択」

西武・呉念庭【写真:小林靖】
西武・呉念庭【写真:小林靖】

西武で8年間プレーした呉念庭は退団して台湾球界への挑戦を発表した

「なんやろな」――。ただならぬ雰囲気に違和感を覚えた。来年から西武の育成・アマチュア担当兼プロ担当となる上本達之氏は、11月24日に行われた球団納会ゴルフのクラブハウスで、参加選手らを個別に呼び出しては神妙な表情で挨拶している呉念庭(ウー・ネンティン)内野手の姿を見た。

 流れで上本氏の元にも歩を進めた呉から「退団します」と告げられた。「え!? 台湾に帰るの?」「台湾でのドラフトが何か月後(来年7月)にあるんです。今年がそうするタイミングでした」「そうか。お疲れさま。今までありがとう」。呉はラウンド後の順位発表のタイミングで全員の前でも挨拶したという。
 
 突然の退団報告。だが、上本氏は「タイミングがいいと思いました。今のままなら、(西武に)残れたとしてもあと1年くらいかなと心配していたので。年齢も30歳でしたし」と心境を明かした。台湾出身の呉は、共生高(岡山)に留学。第一工大を経て、2015年ドラフト7位で西武入りした。2021年には自己最多の130試合に出場し、初めて規定打席をクリア。監督推薦で初のオールスター出場も果たした。しかし、今季は41試合、打率.205(78打数16安打)、1本塁打11打点にとどまった。
 
 一方で今年は3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や10月のアジア大会で台湾代表としてプレーしている。その点からも、上本氏は「代表にも積極的に参加していたし、台湾の人も彼のことを知っている。いい選択だと個人的には思っています」と続けた。

チームやファンの間でも浸透していた「ウーイング」は上本達之氏が始めた

 2020年には育成コーチ、2021、2022年は2軍打撃コーチとして呉を指導。2021年3月31日の日本ハム戦(札幌ドーム)で伊藤大海からプロ初本塁打を放ったシーンは、遠征先の仙台での食事会場で見届けた。「これで何とかプロ選手生命が伸びたな。もう少しプロの世界で過ごせるなと安心した」と振り返った。

 安打や本塁打を放った際に「ウー!」と言いながら両手を顔の近くでサイレンのように回す「ウーイング」がチームやファンの間で恒例化していた。上本氏がやり始めたとされており「そんな記憶ないんですけどね」と笑うが、人見知りだった入団直後から「ウー!」と声をかけ続けていたという。「めちゃめちゃ絡みづらいオッサンだと思われたでしょうね。でも徐々に乗っかってくるようになってくれました」。 

 12月1日の会見で呉は「監督をはじめ、球団本部、スタッフ、裏方さんの皆さんにやさしく接してもらって、離れるのが本当に寂しい。でも、自分で決断して台湾でやることに決め、みんなもそれを尊重して応援してくれるので、感謝の気持ちでいっぱいです」と号泣した。
 
 報道でその様子を知ったという上本氏は「台湾が強くなった方が野球界が盛り上がる。みんなから教えてもらったことをアウトプットしていってほしい。所属するチームだけでなく、台湾のために頑張ってほしい。1年でも長く現役を続けて欲しいですね」と惜別のエールを送った。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

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