FA取得選手の苦悩「夢に出るくらい悩んだ」 “控え”も納得…33歳が掴んだ4年契約

Full-Countのインタビューに応じたDeNA・戸柱恭孝【写真:湯浅大】
Full-Countのインタビューに応じたDeNA・戸柱恭孝【写真:湯浅大】

DeNA・戸柱恭孝は国内FA権を行使せず4年契約で残留「横浜のために頑張る」

 国内フリーエージェント(FA)権を行使せず、来季からの4年契約による残留を発表したDeNAの戸柱恭孝捕手がFull-Countのインタビューに応じ、FA権取得から残留決断に至るまでの悩みぬいた日々を告白した。

 権利を取得した7月29日から自問自答の日々は始まった。「今はシーズンに集中します」といった趣旨のコメントを残したが、「シーズン終了まで(悩みが)ゼロでいる選手はいないと思います。ほとんどの選手はどこか片隅にあったと思います」と明かす。試合が始まればプロとして「チームが勝つことに100%集中している」と話したが、ゲームセットを迎えると再び脳裏によぎる。

「試合後の反省の時間の中でも、気がつけば『結局はどうなるんだろう』とか考えてしまっていることはありました。その比重は日を追うごとに大きくなっていった感じです」

 オフに入ると、悩む時間は一気に増えた。「トレーニングで体を動かしている時も、子どもと遊んでいる時も頭の片隅ではどうしたらいいのかと考えていました。寝ていても夢に出るくらい悩みました」。

 誰でも取得できる権利ではない。権利を行使することで、自分を必要とする他球団の話も聞ける。「野球人としての立ち位置が分かるというか。球団を変えたら考え方も変わる。それぞれのチームにカラーがあり、そこでプレーをしている選手がいる。捕手としての引き出しが増えるのではないかと考えました」。プロ野球の世界で頑張ってきた分だけ、自分の価値を知りたいと考えるのは自然の流れでもあった。

 2023年シーズンのスタメン捕手の内訳は山本祐大が52試合、伊藤光が48試合、戸柱は43試合だった。「もちろん、試合に出続けたいし、スタメンで出たいです。『スタメンで出なくてもいい』と思ったら、選手として終わりです」。環境を変えることで出場機会が増えると考えたこともあったという。

「大事なのは1軍にいること」…先発出場でなくても与えられた役割がある

 だが、8年間のプロ野球人生で気付いたことがある。スタメンだけが全てではない。「スタートからいけて、途中から出るのもできて、代打もいけて、最後を締めるのもいける。そういう選手になれたら幅も出るし、成長もできる。試合になれば役割分担が必ずあります。大事なのは1軍にいること。それが監督の考える戦力のピースになっているということなんです」。

 今季は「特例2023」の対象選手として8日間だけ1軍を離れたが、戸柱はスタメンとして投手をリードし、ベンチでは大きな声を出し、若手ともコミュニケーションを図り、多くの選手の相談にも乗った。全143試合で先発マスクを被れなくても、自らを必要とされていることを実感した。

「若い時は全くそう思わなかったんです。全部スタメンで出たいと。選手としてそれは大事ですけど、それだけだと、選手としての器が小さくなってしまう。そこだけしかできない選手だと、監督にとっては使いにくいと思います」

 年齢を積み重ねたことで見えてきたことがある。DeNAにいたからこそ、見えたものかもしれない。だからこそ感謝の思いがさらに強くなった。「僕はまだプロで8年間しかやっていませんが、本当に色々な野球があるというのを横浜で学ぶことができた。成長させてもらいました」。

 残留交渉の席で萩原龍大チーム統括本部長から提示されたのは4年契約。33歳という年齢を考えれば異例ともいえる。そして「大事な戦力。レギュラーでもう1回やってほしい。若い選手も戸柱選手のことを見ている」の言葉が響いた。「この年齢から4年間は本当に嬉しいことです。今まで以上に身が引き締まる。横浜のために頑張ろうという気持ちになりました。そのために今日(契約更改交渉が行われた12月11日)は青いスーツとネクタイで着ました」と笑った。

 11月14日、自身のSNSで695文字にも及ぶ長文で球団、スタッフ、ファン、仲間へ感謝をつづり、残留を表明した。「気持ちが固まってからメモ書きをしていました。言葉遣いを間違えていないかグーグルで調べながら、完成したのは表明前日の夜です。思ったよりも時間はかかりませんでした。自分の伝えたい思いがあれば、そんなもんなんですね」。“ベイスターズ愛”を貫くことに決めた。悩み抜いた選択。もう、迷いはない。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

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