買い物中に知った戦力外 スーパーの屋上で報告も…「ありゃー!」救われた妻の笑顔

元オリックス・宮崎祐樹氏【写真:橋本健吾】
元オリックス・宮崎祐樹氏【写真:橋本健吾】

2019年にオリックスを退団した宮崎祐樹さん、現在は「アクサ生命」の営業マンとして活躍

 NPBの舞台に別れを告げ、“第2の人生”はスーツ姿で全国を駆け回る。2019年にオリックスを退団した宮崎祐樹さんは現在、保険会社「アクサ生命」の営業マンとして活躍。戦力外通告を受けた当時を振り返り「奥さんが笑顔で労ってくれたことで全てが報われました」と感謝の言葉を口にする。

 宮崎さんは現役時代に「ゴリ」「タイソン」の愛称でムードメーカーとしてもファンから愛された。プロ8年間の通算成績は234試合、打率.240、8本塁打。プロ2年目の2012年にはNPB史上初となるプロ初安打が「プレーボール・初球先頭打者本塁打」の快挙を果たすなど、記憶に残る選手の1人だった。

 今でも戦力外通告を受けたことは鮮明に覚えている。最後のシーズンとなった2019年。春季キャンプは2軍スタートとなり、紅白戦、練習試合、オープン戦にも声はかからず「そういうことなのかな」と、早くも予兆は感じていた。モチベーションを維持することは難しかったが「若手や周りの人は見ている。最後まで姿勢は見せないとプロじゃない」と、がむしゃらに練習に取り組んだ。

 そして、シーズンも終盤に差し掛かった10月。家族でスーパーへ買い物に出かけていた時だった。屋上の駐車場でスマホが鳴ると、相手は球団マネジャー。「明日、スーツで球団事務所に来てくれ」。全てを悟ると、助手席に座る妻・香穂里さんへ事実を伝えた。申し訳ない思いを抱きながらも、返ってきた言葉は「ありゃー! そっかそっか」と笑顔だった。

現役選手に伝えたい将来設計「引退後に悪い意味で目立つ選手がいるのが悲しい」

「それがめちゃくちゃ助かりました。どんな顔で伝えようかと思っていたのですが、ホッとしたというか。不安な思いを吹き飛ばしてくれた。次のステップに進む決心もつきました」

 翌日、球団施設のある舞洲に向かうと、想像通りの戦力外通告を受けた。球団に残る選択肢もあったというが「一番初めに声をかけてくれた所にお世話になる」とアクサ生命に就職。引退後は金融関係の勉強に没頭し、野球界でのネットワークも生かして敏腕営業マンとして全国を飛び回る日々を送っている。

 プロ野球選手のなかでも、何不自由なく暮らせる額を手にする選手は一握り。ある程度の稼ぎがある時に、引退後の将来設計などの大切さを選手には知ってほしいという。宮崎さんは現役時代にNPBの「退団金共済制度」に加入し、引退後にはまとまったお金を手にすることができた。

 先輩たちの助言もあり「無知な自分を見直すことができた」と感謝し「ほとんどの人は引退後に不安が付きまとうはず」と指摘する。実際にコーチや球団職員として残ることができず、路頭に迷う元選手たちを多く見てきた。

「引退後に悪い意味で目立つ選手がいるのが悲しい。現役時代はお金の管理を他人に任せる人が多いので、少しでも知識を持っていれば考え方も変わってくる。その手助けもできればいいですね」

 サラリーマンとして働く傍ら、介護福祉士の軟式野球チーム「Baseball Team NINE」で監督、奈良県の「SUNホールディングス」硬式野球部ではコーチを務め、野球界への恩返しも忘れない。現役時代にみせたガッツ溢れる“プレースタイル”で、これからも人生を突き進んでいく。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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