失意の中で飛び込んだ金言 涙の宇田川優希に届いた阿部監督からの“遠距離エール”

オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】
オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】

オリックス・宇田川優希「野手から信頼されている投手だとは思っていません」

 思いがけない人の言葉に、決意を新たにした。2023年11月4日の朝、オリックスの宇田川優希投手は、メディアを通して知った巨人・阿部慎之助監督のコメントに救われた。力ある直球を武器とする剛腕は、失意の中にあった。新監督のコメントを聞く2日前、2勝2敗で迎えた阪神との日本シリーズ第5戦(甲子園)で、悔しい思いをしていた。

 2-1で迎えた8回1死二、三塁のピンチで宇田川は3番手としてマウンドへ。カウント2-2から森下に2点適時三塁打を浴び、逆転を許してしまった。4番手の阿部翔太投手も猛虎打線の勢いを止めることはできず、8回に計6失点。チームは2-6で大敗した。

 宇田川は打者2人に対して11球で2失点。マウンドに集まった野手からは「お前のせいじゃない」と声を掛けられたが、溢れる涙を止めることはできなかった。「いきなり(救援で)失敗して追加点まで取られてしまって……。期待に応えられなくて申し訳ないという気持ちでいっぱいでした」と自分を責め続ける中で、阿部監督の言葉が飛び込んできたのだった。

 阿部監督は宮崎で行われていた秋季キャンプ第1クール最終日の3日、サブグラウンドで投手陣を集め訓示した。内容は宿舎でテレビ観戦した第5戦の宇田川が野手から励まされている場面についてだった。

「野手陣が励ましていたのか、慰めていたのか分からないけど、僕には『お前、大丈夫だ』『お前は悪くない』『お前で勝って来たんじゃないか』と言っているんじゃないかと想像した。ああやって野手から言ってもらえるような投手になってほしいと言った。技術はもちろんだけど、そう言ってもらえる人間、選手になってほしい」と、育成5選手を含む12人の若手投手に呼び掛けた。

巨人・阿部慎之助監督【写真:荒川祐史】
巨人・阿部慎之助監督【写真:荒川祐史】

責任ある立場だからこそ…「ちゃらんぽらんの奴には言わない」

 新監督は続けて「やっぱり、ちゃらんぽらんの奴には言わないでしょ。真剣に練習に取り組んで、本当にうまくなろうと思って、日々やってたりとか。そういう姿は絶対にみんなに見られているはずだから」と説明を加えた。

 阿部監督は2000年にドラフト1位で巨人に入団し、2012年には首位打者、最多打点、最高出塁率のタイトルに輝いた打って守れる捕手。2024年から巨人の指揮を執る偉大な野球人から、温かく優しい言葉が発信され「本当に嬉しかったです」と宇田川は振り返る。

 第6戦では出番がなかったが、第7戦では7回から登板。3日前に痛打を浴びた森下を遊ゴロ、大山も中飛に仕留めると、ノイジーを左飛に打ち取り1回を8球で抑えてみせた。気持ちを前向きにさせてくれた阿部監督の言葉だが、改めて思ったことがある。「自分の中では、野手から信頼されている投手だとは思っていません。本当にそういう投手になりたいと思いました」。ふと視線を上げた。

 宇田川は今オフ、球団施設の大阪・舞洲に連日のように訪れ、キャッチボール、ウエートトレーニングで汗を流す。寮生だったこれまでもオフの練習は欠かさなかったが「昨年は退寮後の住まい探しをしたり、外食に出かけたりしたこともあって、十分な練習はできませんでした」と反省を口にする。

 2023年は46試合に登板し、4勝0敗20ホールド2セーブで防御率1.77。「後半から調子が上がっていきましたが、今季は開幕からいいスタートを切れるように自主トレ、キャンプに取り組みたい。1年間、離脱することなく最低ラインは50試合登板。いつかは9回を任されたい」。自信と自覚を胸に、プロ4年目のシーズンに臨む。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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