「フルイニング出場は無理」 初タイトルで頓宮裕真に生まれた自覚…課題克服に“秘密兵器”

オリックス・頓宮裕真【写真:北野正樹】
オリックス・頓宮裕真【写真:北野正樹】

オリックス・頓宮、本塁打にこだわりも「試合に出ないと打つことはできません」

 自らを「ゴリラ」と表現するほどワイルドな風貌から、周囲を笑顔に包む愛嬌がある。オリックスの頓宮裕真捕手は、豪快に放つアーチとは裏腹に、繊細で謙虚。昨季パ・リーグ首位打者の今季テーマは「レギュラーを獲ること」と控えめだ。

「本塁打にこだわりはありますけど、試合に出ないと打つことはできません。(今年は)全試合出場が目標です。まだ全然レギュラーだと思っていませんから、タイトルより定位置を獲りたいですね」

 謙虚な言葉が口を突く。岡山理科大学付属高、亜細亜大を経て2018年ドラフト2位でオリックスに入団。プロ5年目の昨季は打率.307を残し、自身初の打撃タイトルを獲得。一塁手としてベストナインにも輝いた。

「44」の背番号にも、こだわりがある。背番号は、活躍の度合いにより若い番号に変わっていくことが一般的であり、オリックスでも今季、阿部翔太、山崎颯一郎、宇田川優希、東晃平らが新しい番号を背負う。

 それでも頓宮は色気を見せず「背番号で野球はしません」と、変更する気持ちはない。「44」は、阪急時代に3冠王に輝いたブーマーさんが付けていた番号で、入団会見時に「ユーマーと呼ばれるように頑張りたい」と決意表明をした愛着のある番号でもある。だからこそ、目先の新しさを求める気持ちはない。

オリックス・頓宮裕真【写真:北野正樹】
オリックス・頓宮裕真【写真:北野正樹】

山川穂高へ、忘れない“感謝”の言葉

 恩人への感謝の気持ちも忘れない。昨季に打撃力が開眼したのは、かつての合同自主トレで山川穂高内野手(当時は西武)にタイミングの取り方を教わったことがきっかけ。左足を体の前にブラっと振り出し、1度は高く上げることで「間」が取れるようになり、コンタクト率が上がった。

 昨季終盤、首位打者争いの最中に打撃の秘密を質問された時には、山川が私生活の問題で謹慎していた期間中でも「今のフォームになったのは、山川さんのおかげです」と感謝の言葉を前に出していた。

 愚直に野球に向き合う。今オフもランニングメニューを多く取り入れ、バットを振ることも欠かさなかった。「休むのがあまり好きでないので、ずっと体は動かしていました」。打撃面では新たな取り組みはしない。微調整はあるが「特に去年の感覚が良かったので、変えるところはありません。練習は嫌いではありませんので、自分が満足いくまで人より多くバットを振り込みたいと思います」と言い切り、継続することを強調した。

 先輩の大城滉二内野手や茶野篤政外野手、池田陵真外野手と汗を流した自主トレでも「たまたま活躍することができただけ。(若手選手には)練習方法など伝えていきたいと思いますが、僕はまだまだ、勉強中なのでアドバイスまでは……」と、控えめな言葉に終始する。

 今オフ、意欲的に取り組むのが、一塁守備だ。昨年、本拠地を訪れたブーマーさんから贈られたのと同じくらいのサイズのファーストミットを、今年からアドバイザリープロスタッフに加わったゼット社で新調した。捕手時代の名残で手首を使ってしまう癖をなくすためサイズと、網(ネット)の部分を大きくしたという。「まだちょっと重いかなと思うのですが、暖かいところに行けばもっと体も動くと思います」と話し、春季宮崎キャンプで慣らしていくことになる。

岡山・備前市の実家は山本由伸と“お隣さん”

 昨季の失策数は、一塁手としてワーストの11。「一塁守備は難しく、守備で交代させられるのでフルイニング出場は無理。開幕スタメンと全試合出場を目標にします」とジョークを炸裂させながらも「守備は大事。慣れ始めたのでそこは(守備交代に)甘えずに、一生懸命やりたいなと思います」と首脳陣へのアピールも怠らない。

 岡山・備前市の実家がお隣さんである山本由伸投手がドジャースに移籍し、チームを離れた。「(岡山から)安心して応援に来てもらえるように、毎試合、結果を出していきたいと思います」。契約更改後の会見では岡山産のデニムスーツ上下を着用。大阪・堺市での自主トレ公開日には岡山市内のラーメン店からキッチンカーを頼んだ。

 グラウンド関係者だけでなく、報道陣にもラーメンを振る舞い、PRに務めるなど「岡山愛」にあふれる。桃太郎のような“鬼退治”に、期待がかかる。

◯北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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