防御率6点台→2軍落ちも…侍J抜擢の大躍進 西武左腕の“激変”を裏付ける「60」

西武・隅田知一郎【写真:矢口亨】
西武・隅田知一郎【写真:矢口亨】

西武・隅田は昨季5月に2軍落ちも、復帰した6月に大幅な変化が見られた

 昨季は先発ローテーションに定着し、9勝を挙げる活躍を見せた西武の隅田知一郎投手。わずか1勝にとどまったルーキーイヤーの悔しさを晴らすシーズンとなったが、決して開幕から順風満帆ではなかった。シーズン3試合目の登板となった4月19日に自身18戦ぶりの白星を手にしたものの、そこから波に乗り切れず5月は月間防御率6点台と失速。5敗目を喫した21日のソフトバンク戦後には登録抹消となった。この後6月以降に8勝を挙げることになるが、どのように成績を好転させたのか投球内容の変化について紹介していく。

 5月まで活躍できなかった要因に挙げられるのが、初球ストライク率の低さである。初球ストライク率51.7%は、5月終了時点で対戦打者数が100以上のパ・リーグの投手35人中、最も低い値を記録していた。もともと落ちる変化球を得意としており、奪三振能力やゴロ率の高さに優れているサウスポーだが、5月まではボール先行のカウントが多く苦しいピッチングとなっていた。登録抹消されて2軍調整となった隅田は、球団スコアラーとともに配球や球種について改めて自己分析をしてピッチングを見直したことを後に明かしている。おそらく、初球ストライク率の課題をこのときに認識していたはずだ。

 この課題を克服するかのように、1軍復帰戦となった6月9日のヤクルト戦では初球の配球に大幅な変化が見られた。それまで初球はストレートから入ることが多かったが、この試合では対戦打者20人のうち15人に対して変化球から入り、初球ストライク率は60%を記録した。この試合で2勝目を手にすると、以降も初球にカーブやスプリットを多めに投じる傾向は続き、縦の変化球でファーストストライクを狙うことが増えていた。

 配球面や各球種の見直しを図った結果、1軍に再昇格後は初球ストライク率が7.1%向上し、ボールカウントが先行する場面が減少している。投球時にボールを切るようにリリースする“曲がる系”の変化球の中では、ストライク率が低かったカットボールとスライダーの投球割合を減らしてカーブに絞り込むと、カーブの制球力が向上してストライク率は大幅な向上を見せた。またボールを抜くようにリリースする“落ちる系”の変化球は、スプリットとチェンジアップの投球割合を近づけている。それぞれの球種の球速差を生かした緩急によって、ストライクゾーン内で勝負しやすくなり、ストライク率の向上につながったのかもしれない。

 隅田は登録抹消を経た6月以降、それまでと比較して与四球がおよそ半減した。約20日間の2軍調整期間で自身のピッチングを見直し、不振から脱却して勝利を積み重ねた。もともと変化球で空振りを奪うスキルが球界屈指のレベルということもあり、ストライク先行のピッチングが安定感につながっている。それでもなお、改善を見せた初球ストライク率はいまだリーグ平均に届いておらず、まだまだ伸びしろを残している点は恐ろしい限りだろう。

 昨年11月に行われた「アジアプロ野球チャンピオンシップ2023」の韓国戦では侍ジャパンの先発投手として、7回3安打無四球無失点の好投を披露した。試合後に井端弘和監督が評した「どのボールでもストライクが取れましたし、どんどん振ってくる中でもストライクゾーンで勝負できた」というコメントは、彼の進化をずばりと表現しているものだった。日本代表の経験を積み一皮むけた若獅子のサウスポーが、今季どのようなピッチングを見せてくれるか注目だ。

(「パ・リーグ インサイト」データスタジアム編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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