全観客に1人で対応…“孤独な売り子”が「好き」 2軍球場からまさかのスカウト

元売り子でキックボクサーのRiNRiNさん【写真:本人提供】
元売り子でキックボクサーのRiNRiNさん【写真:本人提供】

プロキックボクサーのRiNRiNさんはナゴヤ球場の“元名物売り子”

 プロ野球の華やかさが凝縮された1軍球場ではなく、選んだのは2軍球場。ファームならではの魅力に惹かれ、時に空席が目立つスタンドでビールを注いできた女性がいる。現在、プロキックボクサーに転身したRiNRiNさん。中日の2軍本拠地・ナゴヤ球場で愛された名物売り子だった。

 幼いころから空手などに情熱を注いできた一方、高校卒業後のアルバイト生活の中で出会ったのが売り子だった。給料は歩合制。頑張っていることを評価してもらえる形が、負けん気の強い自分の性格にぴったりだと直感的に思った。

 中日の1軍本拠地・ナゴヤドーム(現バンテリンドームナゴヤ)だけでなく、サッカー場やラグビー場などでもビールを売った。人一倍声を張り上げ、球場中を走り回った。そんな生き生きと働く姿が評価され、ナゴヤ球場からスカウトされた。売り子は基本的にひとりだけという特殊な環境だったが「私、人と違うことが好きなので(笑)」と引き受けた。

 内野席の端から端まで行き来し、試合が終わるころにはヘトヘト。それでも辞めたいと思うことはなかった。「気がついたらあの場所自体が好きになっていました。ドームでやっていた時との違いにびっくりしました」。疲労感の何倍もの充実感が、ビールを担ぐ肩を軽くした。

1軍にはない2軍球場だからこその“魅力”

 2軍の試合は、平日でもデーゲームで行われることが多い。そのため、熱狂的な野球ファンだけでなく、中には仕事の合間にこっそり観戦しに来ている人も見かけた。「お客さんがすごく温かい人ばかりで。『今日も頑張っとんな!』って努力を認めてくれる人もありがたいことに増えて」。観客数は1000人に満たないことが多く、ひとりひとりとの心の距離は近くなる。単にビールを売るだけではない交流の時間が楽しかった。

 さらに仕事中にふとグラウンドに目をやると、1軍昇格を目指す若手選手たちが泥にまみれている。「もちろん1軍の方もそうだとは思うんですけど、必死さが近くで感じられて。『私も頑張ろう!』ってエネルギーをもらえるんです。グラウンドとの距離も近くて、選手たちの言葉も聞こえてくるので、好きなんです」。がむしゃらな姿に、日々背中を押されていた。

 昨年4月に6年間の売り子生活に区切りをつけ、一念発起してプロ格闘家に転身。どれだけ時間がたっても、観客席からの景色は忘れることはない。青空に、泥まみれのユニホームに、気迫の声に、選手へのエールに彩られた2軍球場は、宝物のような場所であり続ける。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)

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