届かなかった「1票」が生んだ“自覚” 紅林弘太郎が誓う「向こう10年」連続でのタイトル

オリックス・紅林弘太郎【写真:北野正樹】
オリックス・紅林弘太郎【写真:北野正樹】

オリックス・紅林が気づかされた「1票」の重さ

 泣いた「1票差」を追う。オリックスの紅林弘太郎内野手は昨季、守備の名手に与えられる三井ゴールデン・グラブ賞のパ・リーグ遊撃手部門で、西武の源田壮亮内野手に1票及ばず、初のタイトルを逃した。「1票しか差はなかったのですが、その差はすごく大きいと感じました」。決意を新たに、宮崎春季キャンプに臨んでいる。

「たかが1票。されど1票」。1972年ミュンヘン五輪でテロのため決勝戦が順延となったことも影響してソ連に敗れ、「銀」に終わった女子バレーボール日本代表監督の小島孝治さん(故人)は、のちに「紙1枚の差というが、この紙は鉄より厚い」と語っている。紅林にとっても、源田への「1票差」は、分厚い。

 紅林は駿河総合高から2019年ドラフト2位でオリックスに入団。1位の宮城大弥投手と同期入団で、187センチ、94キロの打って守れる大型遊撃手だ。プロ4年目の昨季、ゴールデン・グラブ賞を獲得できる有利な条件はそろっていた。127試合に出場し、遊撃での失策は6。2013年から5年連続ゴールデン・グラブ賞を獲得していたソフトバンクの今宮健太内野手がリーグ最多の10、2018年から5年連続の源田は9を記録。試合数も今宮が126、源田はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での負傷もあり100試合にとどまっていた。
 
「チャンスだなと思っていました」と、紅林は正直に振り返る。守備を対象にしたタイトルのため、失策の数だけが選考基準ではない。打撃も直接関係はないとはいえ、打率はリーグ6位の.275。チームのリーグ3連覇に貢献するというプラスイメージもあった。しかし、記者投票では115票を獲得した源田が6年連続のタイトルに輝き、紅林は114票で「1票」及ばなかった。
 
「まだまだ、守備面で認められていないということです。これからは、源田さんが良い状態でシーズンに臨んでいる時にタイトルを獲れるようにしなければいけません」。名手が怪我をしたシーズンにタイトル獲得を期待するのではなく、元気にプレーをしている時に獲ってこそ、自分の成長の証だと気付かされた「1票差」でもあった。

侍JAPANの井端弘和監督「いずれ代表に入ってくる選手」

 自信になる数字もあった。記者投票で初めて名前が挙がった2021年は10票(4位)。2022年は15票(3位)だったが、有効投票数264のうち114票も「遊撃手・紅林弘太郎」に投じられた。確実に、メディア関係者に守備力は評価された。
 
「源田さんは速く細かい動きが上手く、僕は肩で魅せたり、深いところのゴロを捕ってアウトにするなど、タイプが全然違います。その違いの良さを見せたいと思います。ちゃんと信頼されて『ショートは紅林しかいない』と言われるようにしないと。やっぱり、源田さんを超えないといけないので、圧倒して獲れるようになって、向こう10年くらいは連続して獲りたいですね」
 
 日本代表入りに期待する選手として紅林の名前を挙げた侍JAPANの井端弘和監督が、2月6日にキャンプ地を訪問し「守備力も年々、良くなってきています。いずれ代表に入ってくる選手であるのは間違いない」と攻守での成長を評価した。2023年の球宴でも、守備の心構えを丁寧に教えてくれた源田を超えてタイトルを獲得してこそ、恩返しになる。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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