鷹がアフリカ選手のトライアウト実施 NPB初の試み…フロントが明かす狙い

トライアウトを受けているジョセフ・デン・トン【写真:上杉あずさ】
トライアウトを受けているジョセフ・デン・トン【写真:上杉あずさ】

トライアウトを受けているウガンダ出身のカトー投手と南スーダン出身のデン投手

 ソフトバンクが日本球界で初めての試みを始めた。ファーム本拠地「HAWKS ベースボールパーク筑後」でのC組春季キャンプ。第5クール初日の20日からアフリカ圏の選手のトライアウトを行っている。ウガンダ出身の17歳、エドリン・カトー投手と南スーダン出身の16歳、ジョセフ・デン・トン投手の2人は25日までC組の選手たちに混じって練習する。

 これまでソフトバンクは即戦力補強以外にも、キューバやドミニカ共和国などから若手を育成選手として獲得してきた。外国人選手も自チームで育成する試みを続けている。球界を代表する投手になったリバン・モイネロ投手も、もともとは育成選手で、現在も育成外国人選手が7人在籍している。

 とはいえ、アフリカ圏は“未開の地”で、トライアウトを行うのは初めてのことだ。NPBに所属したことのあるアフリカ大陸出身選手は過去にもいたが、米マイナーリーグを経てからの加入だった。米球界を経ずに、NPBにやってくるとなれば、球界としても初めてのことになる。

 なぜ、ソフトバンクはアフリカ圏の選手の調査、トライアウトに至ったのか。松本裕一・球団統括本部編成育成本部国際部部長は「世界一強いチームを作ろうということで、世界中にいる才能のある選手をうちのファームシステムに入れて、チームを強くしたいという狙いです」と説明する。

 昨年、松本氏は嘉数駿GM補佐と共にヨーロッパ、アフリカで視察を行った。近年、ドジャースと4人、パイレーツと1人が契約するなど、ウガンダからメジャー球団との契約を勝ち取った選手が増えている。松本氏によると「伸び率がすごいんですよ。140キロちょっとしか出ていなかったピッチャーが、1年で160キロ投げるようになった」と、ポテンシャルの高い選手が多くいるという。

 世界一の球団を目指しているソフトバンクにとっては、いい選手がいれば、地域を選ばず世界全体に視野を広げたい考えでいる。松本氏も「いい素材の人がいたら、連れてこないと。アメリカから即戦力を連れてくるって本当に難しいんですよ。一流選手となると年俸の差が激しい。だから、こういった選手をちゃんと育てられたら大変なことになる」と展望を語る。

トライアウトを受けているエドリン・カトー【写真:上杉あずさ】
トライアウトを受けているエドリン・カトー【写真:上杉あずさ】

カトーは関西独立L「兵庫ブレイバーズ」に所属する

 ウガンダから選手が最初に来日したのは2012年だったという。関西独立リーグの「兵庫ブレイバーズ」に加入して以降、ウガンダから来日した6選手が同球団でプレーした。今回トライアウトを受験しているカトーも同球団に所属中だが、これまでウガンダ出身選手がNPB球団に入団した例はなく、入団が決まれば初めてのこととなる。

 カトーは兵庫ブレイバーズで今年が3シーズン目となる。高い身体能力を生かした真っすぐや身体のキレが特徴の左腕で、モイネロに憧れている。南スーダン出身のデンは松本氏が視察した際に「ちょっと目立っていた。現在地がどうというよりも、将来、“ウガンダの佐々木朗希”みたいになりそうなサイズ感といい、身体の柔らかさといい、ポテンシャルがすごいなと思ったので、是非、日本でも見させてもらいたいと思って」と惚れ込んだ素材だと明かす。

 当の本人たちも“ジャパニーズドリーム”を掴むべく意気込んでいる。そこにはウガンダやアフリカの置かれた社会情勢が大きく影響している。

 日本ではプロ野球選手になれなくとも、社会人野球や独立リーグといくつかのカテゴリーが存在する。また、趣味として草野球を楽しむ人も多くいる。一方、ウガンダの環境はそれを許さない。兵庫ブレイバーズでコーディネーターを務める田中勝久氏は「大人になって野球を遊びでできるほど豊かではないので、職業にできるか、辞めるかという選択を若い時期に迫られるんです」と言う。

 カトーは現在も、決して高くはない給料の中からウガンダの家族に仕送りをしている。デンの南スーダンは各地で紛争が起き、政情不安、食糧不足など数多くの問題があり、国内外に避難民がいる。ウガンダに避難して野球を続けているデンは「ママの生活を良くしてあげたい」と、南スーダンに残る母のために野球で成功したいと夢を持っている。

「活躍してウガンダにいる家族を幸せにしたいとか、いい思いさせたいという思いが強いですね。自分よりも、自分がお金を稼いで、次どうしたいかって言えるのが、発展途上国の子たちなのかもしれないです。ご飯もちゃんと食べられない国なので」と、田中氏は彼らの思いを代弁する。

 ウガンダの野球は近年、目覚ましい発展を遂げ、アフリカの大会でも結果を残している。「ただ、お金がなくて、勝ち上がっても遠征に行けないんです。去年もU-18とU-15で女子ソフトボールで優勝して、台湾で行われたU-18のワールドカップにも出る予定だったのですが、お金がなくて棄権したんです」(田中氏)という苦しい財政状況にある。環境が整った日本で夢を掴みたいという選手たちの思いと、世界一のチームを目指す球団の思惑が合致したともいえるだろう。ソフトバンクの新たな試みが、世界中の野球選手の夢となるかもしれない。

(上杉あずさ / Azusa Uesugi)

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