現役続行も…よぎった“所属先なし”の危機 言い訳せぬ環境、34歳が受け止める現実

練習で汗を流すくふうハヤテ・田中健二朗【写真:間淳】
練習で汗を流すくふうハヤテ・田中健二朗【写真:間淳】

DeNAを戦力外→くふうハヤテに入団の田中健二朗「ただただ野球が好き」

 戦力外になっても野球を続ける場所を探した理由はシンプルだった。「ただただ、野球が好きだから」。今季から新設球団のくふうハヤテベンチャーズ静岡でプレーする前DeNA・田中健二朗投手が、再びNPB12球団への復帰を目指している。トレーニング器具やスタッフの数など、昨季までと比べると恵まれている環境とは言えないが、知識や経験で補っていく。

 体は動く。情熱も衰えていない。田中にボールを置く選択肢はなかった。

「戦力外になったからといって、不満や悔しさを爆発させることはありませんでした。このままでは終われない、誰かにプレーしている姿を見せたいというより、ただただ野球がやりたい気持ちです。自分が投げられると思っているうちは、野球で勝負したいとずっと思っています」

 昨季終了後、DeNAから戦力外通告を受けた。2007年に高校生ドラフト1巡目で横浜(現DeNA)に入団し、一度も移籍することなく通算274試合に登板。2016、17年には2年連続で60試合以上マウンドに立ち、ブルペンを支えた。

 戦力外通告を受けた直後から、現役続行を表明していた。ただ、プレーする場所が見つからない。チームに所属せず個人で練習する可能性も頭をよぎった頃、高校時代に3年間過ごした静岡県に誕生した「くふうハヤテベンチャーズ静岡」から声をかけられた。

「ハヤテから話がなかったらフリーで練習するしかなかったかもしれません。話をいただいた時はうれしかったです」

DeNA時代の田中健二朗【写真:町田利衣】
DeNA時代の田中健二朗【写真:町田利衣】

根っからの野球好き「引退しても草野球をしたい」

 現在34歳。10代や20代の時と比べて確実に体力は落ちている。だが、積み重ねた経験と知識が新天地で生きている。スタートを切ったばかりのくふうハヤテには、専用の室内練習場やトレーニングルームはない。トレーナーやブルペン捕手の人数も十分ではない。DeNAの頃と比べれば決して恵まれているとは言えないが、田中は前向きに捉えている。

「環境はどうにもなりませんし、器具がなくてもできる練習やトレーニングはあります。今までやってきた中で自分の引き出しを開けていくつもりです。それに、思い通りにいかないことは経験値になりますから」

 例えば、今は肩や肘を怪我するリスクを減らす目的も兼ねて、投球数を減らしている。その分、瞬発系のトレーニングを増やしたり、走るメニューを多めに取り入れたりしている。田中は「キャンプで投げ込みをすれば投げる体力がつくかというと、必ずしもそうではないと思います。シーズンで3~4イニング投げ切れる体力や連日投げられるコンディションをつくることを心掛けています」と語る。DeNAに所属していた時とは違い、くふうハヤテでは先発、中継ぎ、抑えと役割が明確に割り当てられず、様々な起用法が想定される。NPB12球団に復帰するには、その中で結果を出す必要がある。

「1軍を目指す選手はアピールしないといけない立場です。練習環境や起用法は言い訳になりません。自分では変えられない部分は受け入れて、与えられている条件でベストな方法を探しています」

 NPB経験者が再び12球団に戻るには、7月31日が期限となっている。ただ、田中に焦りはない。大好きな野球をできる喜びが勝っている。「小学校から野球を続けてきて、嫌いになったことは一度もありません。引退しても草野球をやりたいと思っていますから」。プレーする環境が変わっても、野球小僧の真っ直ぐな芯はぶれていない。

(間淳 / Jun Aida)

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