“真の長打力”を示す指標とは? 圧倒的だった鷹の天才、ハム23歳が示した可能性

日本ハム・万波中正【写真:矢口亨】
日本ハム・万波中正【写真:矢口亨】

鷹・近藤は長打率、ISO、OPSでもトップだった

 打撃指標の1つである「長打率」は、「塁打数÷打数」で求められる。「塁打数」には単打、二塁打、三塁打、本塁打が全て含まれるため、算出の際には単打の数も大きなウエートを占める。そのため、長打率は必ずしも多い長距離砲だけが有利になるわけではない。

 そうした課題を解消するため、「長打率-打率」という計算式で算出される「ISO」という指標が用いられることがある。長打率とISOの間にはどの程度の差異が存在するのか。昨年のパ・リーグで規定打席に到達した選手で、長打率がトップ10に入った選手が実際に記録した数字をもとに、2つの指標を掘り下げる。

 2023年のパ・リーグで規定打席に到達した選手のうち、長打率が.500を超えたのは、ソフトバンク近藤健介外野手とオリックス森友哉捕手。ISOも、近藤がリーグ1位、森がリーグ2位だったが、3位以下はやや異なる。長打率ではオリックス・頓宮裕真捕手が3位、ソフトバンク・柳田悠岐外野手が4位だが、ISOでは頓宮が8位、柳田は6位だった。

 一方で、ロッテのグレゴリー・ポランコ外野手が長打率ではリーグ7位だが、ISOはリーグ3位。ISOでは日本ハム・万波中正外野手が4位、楽天・浅村栄斗内野手が5位と、本塁打王争いを繰り広げた選手たちが上位に入っている。

 ポランコだけではなく、万波の長打率は5位、浅村が6位と、いずれもISOに比べて順位を下げていた。万波とポランコはOPSも.700台と際立って高いわけではなく、長打率とISOの乖離が特に大きいケースとなった。

“本塁打率”が最も高かったポランコ、ハム万波の課題は出塁率

 次に本塁打を1本打つのに必要な打席数を示す指標「AB/HR」に目を向ける。最もAB/HRが優秀だったのは、長打率が7位だったポランコで、およそ17打席に1本のペースで本塁打を記録していた。AB/HRのランキングでは2位が近藤、3位が浅村、4位が万波と、本塁打王を争った選手が順当に上位に来ていた。110試合出場ながらリーグ5位の18本塁打を放った森が、万波とほぼ同水準のAB/HRを記録して5位に位置している。

 ISOのランキングとAB/HRのランキングは、どちらも上位5人が全く同じ顔ぶれとだった。一方で、長打率のランキングでは上位5人に入っていた頓宮と柳田は、ISOとAB/HRではどちらも6位以下となっている。だからといって長打率が指標として優れていないというわけではない。有用性を示す例としては、「出塁率+長打率」で算出される「OPS」という指標の存在が挙げられる。

 近藤は本塁打数だけでなく、二塁打もリーグトップタイの33本、安打数もリーグ2位の149本と、あらゆる面で高水準の成績を残した。長打率、ISOに加えてOPSでもリーグトップの数字を記録した近藤は、2023年のパ・リーグで最も優れた打者と呼べる存在だった。リーグ2位の長打率を記録した森は110試合の出場で18本塁打、24二塁打を記録。2本の三塁打を含め、ハイペースで塁打を積み重ねていた。OPSでもキャリア平均の値(.840)を上回る.893をマークしており、打撃内容の優秀さが指標にも示されていた。

 、最多安打のタイトルを獲得した柳田は、リーグ3位タイの29二塁打、同5位の22本塁打を記録。2023年のISOは.185とキャリア平均の数字(.227)を下回り、2014年以来9年ぶりに.200を割り込んだ。それでも、OPSと長打率はともにリーグ4位と優秀な水準を維持している。頓宮は113試合で16本塁打、23二塁打を記録し、柳田を僅差で上回る長打率.4837を記録した。ISOは前年の.214から.177に低下したが、長打率は.440から.484へ向上。自身初タイトルとなる首位打者を獲得しており、打者としての完成度は高まったと考えられる。

 23歳の万波は近藤と並んでリーグ最多タイの33二塁打を放ち、長打率もリーグ5位。長打率.460以上を記録した6選手のうち、万波を除く全員がOPS.820以上と優秀な数字を記録していただけに、課題の選球眼を改善して出塁率を上昇させられれば、打者としてさらなる生産性向上も期待できるはずだ。

 オリックス中川圭太内野手は12本塁打、ISO.148、AB/HRは42.17だが、リーグ3位タイの29本の二塁打と、同2位タイの5本の三塁打を記録。結果として長打率.417と上位10位以内に入る数字を記録しており、長打率における本塁打以外の数字の重要性を示す存在となっている。

 長打率は、打者の能力や生産性を推し量る上で有用な指標の1つとなっている。一方で必ずしも純粋な長打力を指し示す指標ではない側面がある。より純粋な長打力を推し量るのに適した「ISO」や「AB/HR」といった指標を参照することで、打者の能力をより深く掘り下げることが可能となる。新シーズンでは、長打率やISOといった指標にも注目してみてはどうだろうか。

(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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