大谷翔平への憧れを封印…二刀流を断った剛腕ルーキー 投手にこだわった理由【マイ・メジャー・ノート】

パイレーツのポール・スキーンズ【写真:Getty Images】
パイレーツのポール・スキーンズ【写真:Getty Images】

パイレーツの超大型新人、スキーンズは憧れだった大谷翔平と対戦した

 その名は日本のメジャーファンにも轟いた。

 5日(日本時間6日)の登板で、大谷翔平に果敢に挑んだパイレーツのポール・スキーンズである。バックスクリーンへ特大2ランを浴びたが、オール160キロ超えの直球で3球三振を奪うフルスイングと剛速球の対決にはメジャーの醍醐味があった。

 身長198センチ体重106キロの剛腕スキーンズとの対決を振り返った大谷は、球の速さよりもスリークォーター気味の腕の角度が印象に残ったという。そして22歳の若武者が大学の途中まで二刀流だったことを聞かされると「ぜひ、打席に立ってほしいなと思います。彼にも」と話した。ただ、怪腕にとって大谷のエールも今はうつろに響く——。

 つい先日のことだった。パイレーツを取材する旧知の地元メディア関係者がスキーンズの入団エピソードを明かしてくれた。

「球団は、スキーンズが望めば二刀流を容認する方向だったようです。でも、彼自身が投手一本での強い意志を示しました。周知の通り、二刀流への刺激も、またハイレベルでの難しさも大谷の存在から得ていますが、『打者の傾向をつかみ登板間に研究して準備万端でマウンドに上がる楽しさ』をいちばんの理由として話しています」

 スキーンズはエンゼルスの本拠地があるアナハイム近郊のフラートン出身。エルトロ高校時代の2018年4月8日に、大谷の本拠地初登板を客席から裸眼に収めたことは知られている。伝説のベーブ・ルース以来となる投打二刀流で大注目された存在に胸を躍らせ、7回12奪三振、1安打無失点の快投をまぶたに焼き付けた。

ツインズ時代のウェス・ジョンソン投手コーチ【写真:木崎英夫】
ツインズ時代のウェス・ジョンソン投手コーチ【写真:木崎英夫】

影響を受けた日本人メジャー投手

 当時15歳だった少年は内野もこなす二刀流で鳴らしていた。卒業後は、コロラドにある空軍士官学校に進み、投手と捕手との二刀流でプレー。同校の卒業を目指していたスキーンズだが人生最大の目標はメジャー入りだった。これがジレンマを生む。

 空軍士官学校では、3年生になると卒業時から5年間の勤務が義務付けられるため、プロ入りには遠回りを強いられる。2年次でのドラフトに漏れたスキーンズは思い悩んだ。そして晩夏に転機が訪れる。来季の大学日本一を目指す強豪ルイジアナ州立大のジェイ・ジョンソン監督から電話が入った。投手としての資質と体格にも恵まれたスキーンズは「頂点取りのマウンドにいるのは君だ」のメッセージをもらう。

 即答はしなかった……。

 後日、スキーンズは耳を疑う連絡を受けた。それはミネソタ・ツインズで投手コーチを務めていたウェス・ジョンソン氏のコーチ就任だった。腹は決まった。

 ツインズの投手陣を整備した人物からハイレベルなアドバイスを受けられることはこの上ないメジャーへの準備になる。動作解析を根拠に、球速をアップさせることに長けるウェス・ジョンソンコーチの指導を仰いだスキーンズは、昨年の大学選手権大会で自己最速に迫る101マイル(約163キロ)のストレートを繰り出し、大学シーズン記録の202奪三振を塗り替える快挙を成し遂げた。

 昨年の7月9日から3日間にわたり、シアトルで行われたMLBドラフト会議の初日で、全米が注目した全体1位の「いの一番」指名を射止めたのがポール・スキーンズだった。NFLシーホークスの本拠地ルーメン・フィールドに設けられた特設会場の大型スクリーンには、両親や友人たちに囲まれたスキーンズが映し出された。満面の笑みには夢舞台のマウンドで勝負する強靭な意志が宿っていた。

 スキーンズが影響を受けた投手の中には、常に携行するiPadに独自の資料を蓄積し対峙する打者の傾向と対策を研究し続けるダルビッシュ有がいる。「準備が楽しい」と口にするのもうなずける。

 空軍士官学校卒業から全米大学野球の頂点取りマウンドへ目標を切り替え、そしてメジャーで光彩を放つ投手を目指すポール・デビッド・スキーンズには、二刀流を解体した文脈があった――。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。 2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。シアトル在住。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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