五輪で誹謗中傷「人間不信に」 母親は疲弊…経験者の願い「叩かれるのは仕方ない」

西武やロッテなどで活躍したG.G.佐藤氏【写真:湯浅大】
西武やロッテなどで活躍したG.G.佐藤氏【写真:湯浅大】

G.G.佐藤氏は北京五輪で痛恨の失策…日本中からバッシングを浴びた

 五輪出場選手らへの誹謗中傷が問題視されているなか、西武やロッテなどで活躍したG.G.佐藤氏(本名・佐藤隆彦)が、2008年北京五輪での「世紀の落球」で日本中からバッシングを浴びた当時の経験を語った。周囲の人全てが自身に批判的な目を向けていると疑心暗鬼になり「人間不信になりました」。現在でも“言葉の刃”は飛んできていると明かした。

 佐藤氏は野球日本代表の一員として北京五輪に出場。大事な試合で勝敗を左右するような落球を繰り返し、日本は期待されていた金どころか、メダル獲得を逃した。佐藤氏のプレーは「世紀の落球」として、日本中からバッシングを浴び、生死に言及するような誹謗中傷も受けた。実家には週刊誌記者が押しかけ、母親が心身ともに疲弊していたという。

「選手である以上、プレーでミスをして叩かれるのは仕方ないと思うんです。結果を残せなかったわけですから。そこは期待の裏返し。応援していた分、裏切られたという気持ちもあると思う。愛情が土台になっていただけに、愛が憎しみに変わるというか……。でも、言葉を選ばないのはよくない。その人の存在を否定するような形は絶対に良くない」

 佐藤氏は当時、身の危険を感じたことはなかったという。ただ、「ずっと誰かにつけられていると感じていた。道ですれ違う人、コンビニの店員さんでも目が合ったら『エラーしたやつ』と思われているんじゃないか。周りの記者さんから頑張ろうと言われても『心の中ではそう思っていないんだろうな』と勝手な被害妄想ばかり。人間不信になりました」。

「何でも叩く世の中はやめてほしいです」

 悪質な投稿者に対し、もっと情報開示ができるようになればいいという。「抑止力になると思いますよ。匿名ではないよ、見つかりますよ、というのは分かった方がいい。学校でも子供たちにSNSの使い方、誹謗中傷したらどうなるかを教えていけばいい。大人も学んだ方がいいです」と堤案した。

「何でも叩く世の中はやめてほしいです。叩かれるから縮こまってチャレンジできなくなりますよ。たった1回の失敗で人格まで否定されたら生きづらいでしょ。失敗に寛容、他人に寛容な世の中になってほしいです」

 佐藤氏は現役を引退した現在、講演などで当時の経験を伝えている。失敗から得たこともあり、痛恨の失策があったから今の自分がいる。最近ではイベントでエラーすればファンは喜んでくれる。自身のSNSでも失策を“ネタ”にすることもある。「いつまでそのネタ擦っているんだよ」「それしかねぇのかよ」といった批判的なコメントもついてくるが「完全にスルーしています。こちらが反応することで、向こうは承認を受けていると思うので」。

“攻撃”してくる人に対し「もっと自分の幸せを追求すればいいのにと思います。自分がそうなので。一人一人がとことん幸せを追求してほしいですよね。そうすればもっと幸せな世の中になりますよ」。辛い経験を味わった佐藤氏の心からの願いだ。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

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