ダルビッシュがかける思い 肩を並べた偉大な記録よりも…見据えた「ぎりぎりの戦い」【マイ・メジャー・ノート】

マリナーズ戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:ロイター】
マリナーズ戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:ロイター】

ダルビッシュ有は日米通算201勝で野茂英雄氏と肩を並べた

 パドレスのダルビッシュ有投手が10日(日本時間11日)、敵地シアトルでのマリナーズ戦で、5回を投げ2本の本塁打を含む7安打を許したものの2失点の粘投。今季5勝目を挙げ日米通算201勝として野茂英雄と肩を並べた。この日の白星は、日米通算200勝を達成した5月19日(同20日)のブレーブス戦以来、114日ぶりとなった。

 マリナーズ打線はスライダーに的を絞っていた。

 初回の3番ラリーの先制弾も、2回の4番レイリーの1発もスライダーを狙い打ちされたもの。2回までに対峙した計8人の打者全員が半速球を打ちに出た。以後、曲がりが大きく球速を落としたスイーパーでバットの軌道をずらすと、「自分の感覚がだいぶよくなった」。切れ味の鋭いシンカーも有効に使い立ち直っていった。

 エンジンが全開になったのがその3回、1死一、二塁で迎えたラリーとの3球勝負だった。初回の打席で右翼席中段に打ち込んだ強打者にスイーパーとシンカーで連続ファールで追い込むと、勝負球は95マイル(約152.9キロ)の“ど真ん中の直球”だった。

「普通に外の高めのボール球を投げようと思ったんですけど、そこをすごく空振りをしているので。自分がミスをして真ん中に行ったというだけで。でも、単純に変化球を狙っているのがわかっていましたから。紙一重ですけどよかったです」

 一方、追い込まれたラリーは「絞り込めなかった」と漏らす。多彩な変化球を駆使する右腕が繰り出す次の1球の見極めの難しさが“ど真ん中”の打ち損じを誘ったと捉えることもできる。“紙一重”の言葉には駆け引きという重みがある。

 中軸打者を相手に、打ち取り方のイメージと体がしっかりと合致し、ダルビッシュは本来の感覚を取り戻して3回から5回までを無失点で切り抜けた。球数は63球だったが、持ち味を存分に出し尽くして先発投手の責任投球回をまっとうした。

マリナーズ戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:ロイター】
マリナーズ戦に先発したパドレス・ダルビッシュ有【写真:ロイター】

日米通算の歴代トップは黒田博樹氏の203勝

 5月29日(同30日)のマーリンズ戦に登板後、左足の股関節痛のため6月1日に15日間の負傷者リスト(IL)入り。その後、6月19日に傘下のマイナー・ハイAでリハビリ登板を果たし復帰間近と思われたが、「家族に関する個人的な事情」で7月6日に制限リスト入り。実戦復帰のために8月23日に負傷者リストに移行して、今月4日(同5日)のタイガース戦で、98日ぶりにメジャーのマウンドに戻って来た。その前回登板は3回途中での降板となったが、この日は「打たれても慌てずに投げられたと思います」と振り返った。

 敬愛するメジャー挑戦のパイオニア・野茂英雄氏の記録に肩を並べてもダルビッシュは淡々としていた。

「数字では同じだと思うんですけど勝ち数でいうと。でもやっぱり投げていた時代であったりだとか、置かれていた状況っていうのは自分とまったく違うので。そういう意味でのすごみというか、そういった意味ではまだまだ手が届かないなっていうのは正直に思うので。人間的にも近づけるように頑張りたいと思います」

 日米通算の歴代トップは黒田博樹氏の203勝。本来の感覚を取り戻し今季中に並ぶ可能性も十分にあるが、ダルビッシュは「この時期に自分の記録のことを言ってられない」。

 声のトーンを上げたのは、今季の残り16試合に向ける思いだった。

「どのチームもそうですけど、勝っていれば雰囲気はいいので。結構ぎりぎりの戦いをみんなしていると思うので。若い選手もベテランもいい感じに混ざっているチームなので。みんな仲がいいですし、本当にどんどんいいチームになっているなという感じがしますね」

 ナ・リーグ西地区首位のドジャースが敗れゲーム差を4.5に縮めたパドレスはワイルドカード争いで首位をキープ。理論も理屈も原理原則もそして感性も投球に生かすダルビッシュ有。プレーオフ進出に向けチーム優先の魂が燃え出した。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模野球部OB。シアトル在住。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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