“金の卵”を首脳陣が絶賛 1軍で苦戦も…横山聖哉の類い稀なる野球センス

オリックス・横山聖哉【写真:北野正樹】
オリックス・横山聖哉【写真:北野正樹】

オリックスのドラフト1位・横山聖哉が乗り越えるべき“1軍の壁”

 1軍の緊張感が選手を育てる。12日に出場選手登録抹消となったがオリックスのドラフト1位・横山聖哉内野手が“1軍の壁”に挑戦している。

「2軍はスタンドに限りがあってお客さんも少なく、比較的気楽な気持ちでプレーができている部分もあって結果も出せていたのですが、雰囲気が全く違う1軍では自分の力が発揮しきれていないというのは感じています」。1年目とは思えない冷静な口調で自己分析する。

 横山聖は上田西高(長野)から走攻守3拍子揃った内野手として2023年のドラフト1位でオリックスに入団。オーバーペースが原因で「下半身のコンディション不良」となり開幕は出遅れたものの、4月12日のウエスタン・リーグ、中日戦(杉本商事BS舞洲)からチーム本隊に合流すると、主に3番で起用された。4月は14試合で50打数19安打、6打点、打率.380をマーク。この間、8試合で第1打席に安打を放ち、5度のマルチ安打を記録するなど、好打を披露した。

 5月24日の西武戦(ベルーナドーム)で初の1軍昇格を果たし、「8番・三塁」でプロ初出場した第2打席でプロ初安打をマーク。26日の同カードでも中前打を放ったものの、その後の2試合で7打数4三振と振るわず2軍降格。8月初旬から再び打撃が上向き、8月30日に再昇格を果たした。12日に出場選手登録抹消となったが、1軍の空気感を存分に味わった。

 福良淳一GMが「(2軍では)どれだけ三振しても、どれだけエラーをしても起用して育てる」と明かすように、球団の方針で太田椋内野手や宜保翔内野手、紅林弘太郎内野手や来田涼斗外野手、元謙太外野手や池田陵真外野手、内藤鵬内野手らと同様に英才教育を受けてきた。

 8月末の時点で池田(80試合)、茶野篤政外野手(78試合)に次ぐ76試合に出場し、打率.227、1本塁打。4番も経験した打撃について横山聖は「疲れも多少ありますし(フォームも)小さくなってしまっていました。ボールに当てに行ったりして自分のスイングができていないところもありました」と振り返る。

「軸足がスウェーして(打球が)詰まってしまう癖があるので、どこに打とうかとかを考えずに、体の使い方を頭に入れて打席に立っています。余計なところで頭を使わないので、自然と結果が出るようになりました」。そう説明するように、8月2日からの8試合で5度のマルチ安打を含め34打数15安打の打率.411とファームで大きく打撃を改善していた。

「教えてできるものではありません」…風岡尚幸野手総合コーチも絶賛のセンス

 春先から2軍で指導を担当し、現在は1軍担当の高橋信二打撃コーチは「技術は非常に高いものがあります。あまり考え過ぎるとよくないところが出て来ると思いますので、純粋に今できることを一生懸命にやるべきだと思います」と能力の高さを評価する。

 さらに高橋コーチが目を見張るのが、試合に臨む準備だという。「彼が素晴らしいのは、準備です。誰よりも先にベンチから出て素振りをしています」。意欲的に取り組む姿勢が好打者への道に繋がる。

 守備面でも、まだまだ課題はある。遊撃での失策数はウエスタン・リーグ3位の「14」。「球場によって土のグラウンドと芝生の間が狭いところがあったりするので、自分の定位置をちょっとずつ決めていかないといけないのですが、まだ全然決まっていません。だから、自分のバウンドで捕れず、難しいバウンドで捕っているケースが多くあります」と経験不足を吐露する。

 2軍で指導する風岡尚幸野手総合コーチは「プロの打球は、アマチュアと違ってスピンが効いていています。ショートゴロをなぜ捕れないのかと思うこともあるでしょうが、横のゴロでもトップスピンがかかるので(野手の間を)抜けるのが速いんです。いっぱい課題はありますが、試合で出てきたことを潰していくことで戦力になってくれたらと思います」と温かく見守る。

 風岡コーチをうならせたプレーもあった。8月16日のくふうハヤテ戦(杉本商事BS舞洲)。延長10回1死満塁でブラウリオ・バスケス内野手の三遊間への緩い打球を逆シングルで好捕し、三塁方向へ体を向けながら本塁へランニングスローする超美技でアウトを奪った。

 風岡コーチも「バランスを崩したり、転んで送球ができなかったりする場面ですが、素晴らしいプレーでした。身体能力の高さがあるからできるもので、教えてできるものではありません」とセンスの良さを認める。

 再昇格後も課題と向き合い、1軍の雰囲気を味わった。「チームにはCS(クライマックス・シリーズ)の可能性がありますから、勢いをつけることが求められていますし、リーグ終盤の勝負がかかった試合を経験させようという球団の期待も感じます」。上田西高時代の恩師、吉崎琢朗監督が常に説いてくれていた「謙虚」を胸に刻む。初心を忘れることなく、攻守にレベルアップを果たして1軍定着を目指す。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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