変貌する巨人・阿部監督「表情が固かった」 発揮した“らしさ”…備わる柔軟性と冒険心

中日戦の指揮を執った巨人・阿部慎之助監督【写真:小林靖】
中日戦の指揮を執った巨人・阿部慎之助監督【写真:小林靖】

22年間巨人スコアラーを務め、ルーキー時代からよく知る三井康浩氏

■巨人 7ー1 中日(16日・東京ドーム)

 就任1年目の阿部慎之助監督率いる巨人は16日の中日戦(東京ドーム)に7-1で快勝し、セ・リーグ最速で今季70勝に到達。4年ぶりの優勝へ、また一歩近づいた。かつて22年間巨人のスコアラーを務め、2009年の第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では日本代表チーフスコアラーとして世界一に貢献した三井康浩氏は、阿部監督をプロ入り当初からよく知る人物だが、開幕直後と比べて指揮官の大きな“変化”を感じ取っている。

「雰囲気が明るくなりましたね。シーズンの最終盤に来て、逆に切羽詰まった感じがなくなり、余裕が見て取れるようになりました」。三井氏は最近の阿部監督の立ち居振る舞いを、こう評する。確かに、開幕直後の阿部監督は試合中には終始、ポーカーフェイスを崩さなかった。最近は味方の本塁打が飛び出した瞬間にガッツポーズを繰り出し、満面笑みで選手を出迎えるなど、表情が豊かになった印象がある。

 三井氏は「開幕当初は監督になりたてとあって、表情が固かったですね。本人が『監督たる者はどうあるべきか』と考えた末に、ポーカーフェイスにしていたのかもしれません。しかし、私は現役時代同様に、もっと明るくいってほしいと思っていました。今のように、感情をストレートに表現してこそ慎之助だと思います」とうなずく。

 ここに来て阿部采配で特筆されるのが、思い切った若手の起用だ。この日は、高卒2年目・19歳の浅野翔吾外野手をプロ入り後初の「5番」に抜擢。6番には秋広優人内野手を並べた。そして秋広が2打席で精彩がないと見ると、5回の守備からオコエ瑠偉外野手へスイッチ。このオコエがセンターオーバーの適時二塁打、中前2点打を連発した。

 今月7日のDeNA戦では、1点ビハインドの9回2死一、二塁という土壇場で、2軍から昇格させたばかりの22歳・中山礼都内野手を代打起用。同点適時打を放ち、延長12回サヨナラ勝ちにつなげた。

1打席ごとに打撃フォームを変えることもあった現役時代

「ああいう若手の起用は、元監督の長嶋茂雄さん、前監督の原辰徳さんに似てきたと思います」と三井氏。そう言えば阿部監督自身、ドラフト1位で中大から巨人入りし、1年目の2001年から当時の長嶋監督に正捕手を任され、厳しい実戦の中で英才教育を受けた。

 阿部監督は作戦面でも、前半戦こそ手堅くバントで送るようなオーソドックスな攻めが多かったが、ここに来てバスターエンドランなど、思い切った作戦で相手を幻惑するケースが目立つ。

 普通は、シーズン大詰めともなれば、若手よりベテランに頼り、奇襲より手堅い攻めが増えるものではないのだろうか──。「そこが現役時代から“柔軟性”と“冒険心”に富んでいた慎之助らしいところですよ」と三井氏は笑う。

 一例を挙げれば、「彼は現役時代、1試合ごとに、下手をすれば1打席ごとに、打撃フォームを変えることがありました。試合前の練習中に『今日はこれで行きま~す』『これで行ってみようかな』と言って、それで打ってしまう。天才的なセンスがあったからこそできたことですが、本来は非常に勇気がいる。私などは心底驚いていました」。さらに付け加えるなら、他の打者のフォームの物まねも名人芸だった。

「今シーズンの中でも、これだけの変化を見せてくれた。となれば、来季が今から楽しみです。慎之助らしい“枠にハマらない”采配を見せてくれるのではないでしょうか」と三井氏。その前に、今季のペナントレースで2位・阪神とわずか2ゲーム差の接戦が続いているが、三井氏は「ベンチの雰囲気がいいので、このまま行ってしまう気がします」と“就任初年度V”に太鼓判を押した。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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