開幕2軍に失望「野球辞めます」 指揮官と向かった夜のゴルフ場「やってられねぇ」

元中日・山崎武司氏【写真:山口真司】
元中日・山崎武司氏【写真:山口真司】

山崎武司氏は1992年に1軍40人枠から外れ…「俺、野球辞めます」

 中日は1991年限りで星野仙一監督が退任し、1992年からは通算2274安打でバックトスなど華麗な二塁守備でも知られたOBの高木守道氏が監督に就任した。元中日の山崎武司氏(野球評論家)にとってはプロ6年目のシーズンだったが、実は開幕前にいったん気持ちが萎えてしまっていた。この年から始まった1軍40人、2軍30人の振り分けで2軍となったからだ。「俺、野球辞めます」とまで口にしていたという。

 1992年から1996年までプロ野球では支配下選手70人を1軍40人、2軍30人に振り分ける制度があった。ベンチ入りできる1軍登録は28人だが、まず40人枠に入っていなければならない。全治2か月以上の故障者ケースを除いて、入れ替えは6月から可能で最大5人まで、9月以降は振り分けが外されて入れ替え自由の規定だった。それが高木中日の1年目シーズンである1992年から始まり、山崎氏は開幕前に2軍30人に振り分けられた。

 シーズン途中の入れ替えの可能性があるとはいえ、もはや毎年勝負の6年目。いきなりの2軍枠にショックは大きかった。「40人枠から外されて“もうやってられねぇー”って思った。2軍監督の福田(功)さんに『もう辞めますわ。俺、野球辞めます』って言いに行ったんです」。悔しい気持ちを抑え切れなかったようだが、そこで福田2軍監督に諭されたという。

「福田さんに『そんなこと言うんじゃねぇ、ちょっと俺に付き合え』って言われて、ゴルフ練習場に連れていかれたんです。『お前打ってみろ』って夜中まで打たされました、ゴルフを……。『こうやって打つんや』『ああやって打つんや』ってね。何が言いたいのか、わからなかったんですけど、そこでなだめられたのは覚えていますね」。それでも気持ちは吹っ切れたようで「辞める」は撤回、1軍枠への入れ替えを目指して2軍で懸命にプレーした。

「そこから2軍で結構、打ったんですよ。それで入れ替えしてくれるって話が出たんですけど、2軍の試合でデッドボールを受けて骨折しちゃったんですよねぇ……」。何とも流れが悪かったが、めげなかった。きっちり治して結果も出し、入れ替え枠を勝ち取って1軍昇格を果たした。8月19日の広島戦(ナゴヤ球場)では途中から左翼の守備に就き、0-0の9回に広島・川口和久投手からシーズン1号、プロ初のサヨナラホームランを放った。

巨人との「10・8決戦」は不出場…「骨折していたんです」

 中日が最下位に沈んだ1992年、山崎氏は40試合に出場して、106打数25安打の打率.236、4本塁打、10打点の成績だった。40人枠から外れたシーズン当初を思えば巻き返したが、まだまだ1軍の戦力にはなりきれていなかった。

 プロ7年目の1993年はプロ初の開幕スタメン。4月10日の開幕・阪神戦(甲子園)に「7番・右翼」で出場して4打数2安打1打点と好発進したが、77試合で163打数44安打の打率.270、3本塁打、17打点と殻を破るまでには至らなかった。しかも「次の年はあまり試合に出れなかったんですよねぇ」と悔しそうに話したように8年目の1994年は38試合、42打数11安打、3本塁打、13打点と出場試合数がまた減った。

 1994年は、同率首位で最終戦を迎えた中日と巨人の「10・8決戦」があったシーズンだ。巨人が6-3で勝って、ナゴヤ球場で長嶋茂雄監督の胴上げという結果になったが、その試合に山崎氏は出場していない。優勝に備えてベンチ裏にいた。「あの時、俺、骨折していたんですよ。有鉤骨骨折。優勝してみんなで喜ぶぞ、球場に来いと言われて、後ろにいたんですけどね」。

 9月20日の阪神戦(ナゴヤ球場)に代打で出た時に骨折した。相手は阪神・湯舟敏郎投手。「カウントは忘れたけど、振った時にビーンと来たんです。スイングでね。あっ、折れたわってわかった。痛かったけどバッターボックスの途中で言えなくて、もう“みのさん(見逃し三振)”するしかないかって思ったら、あまりにも真ん中の球が来たので、本能的にバットを振ったらホームランになったんですよ」。

 シーズン3号の代打アーチで、山崎氏のその年の出場は最後になった。「打った後に高木さんに『監督、骨折しました』って言ったら『アンタ、何言っているの』って言われましたけどね。病院に行ったら案の定、骨折でした」。もっとも、苦労に苦労を重ねた長い下積み時代はこの“骨折ホームラン締め”の1994年で実質終わりとなる。翌1995年は初の2桁となる16本塁打をマークし、プロ10年目の1996年は39発を放ち本塁打王に輝くなど、ついに覚醒の時がやってくる。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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