崖っぷちのド軍が「全く違うものに」 専門家が大谷の一振りを絶賛…「充実している証」
現役時代にNPB通算2038安打を記録した新井宏昌氏が分析
【MLB】ドジャース 8ー0 パドレス(日本時間10日・サンディエゴ)
ドジャースの大谷翔平投手は9日(日本時間10日)、敵地で行われたパドレスとの地区シリーズ第4戦に「1番・指名打者」で出場し、3打数1安打1打点2四球を記録した。チームは8-0で快勝し、2勝2敗のタイに持ち込んだ。現役時代にNPB通算2038安打を放ち、MLB中継の解説も任されている新井宏昌氏は「大谷の一打がなければ、試合の行方は全く違うものになっていたかもしれません」と指摘した。
試合前の時点では、勢いは明らかにパドレス側にあった。ドジャースは1勝2敗で、あと1敗すればポストシーズン敗退の崖っぷちに追い込まれていた。さらにこの日はリリーフ投手を小刻みにつないでいくしかない“ブルペンデー”。舞台も敵地で“完全アウェー”の状況にあった。
ドジャースは初回、パドレス先発のシースに対し、先頭の大谷がカウント2-2から真ん中高めの159キロのストレートに詰まらされ、二ゴロに倒れた。ただ、続くベッツがセンターに先制ソロを放った。
ターニングポイント、1-0とリードして迎えた2回の攻撃だった。1死一、三塁の好機に9番のテーラーが、2度セーフティスクイズを試みたが、いずれもファウルに。強攻で切り替えて空振り三振。このまま追加点を奪えずにイニングを終えれば、試合の流れが相手に傾きかねなかった。ドジャースは、投手陣に大きな不安を抱えていたからだ。
ここで第2打席に立った大谷は、シースが初球に投じた外角高めのナックルカーブを捉え、鮮やかに一、二塁間を破る適時打を放った。新井氏は「大谷はシースに対し、初回の第1打席でストレートに詰まらされていました。いい打者ほど、次の打席ではそのストレートを絶対に打ってやろうという気持ちになりがちです」と指摘。「ところが初球の変化球を、簡単に見逃すことなく打っていけた。そこが素晴らしい」と称賛する。
もっとも「打撃としては、打ち損じの部類。高めからの変化球ですから、芯に当たっていればオーバーフェンスしていたはずです。打ち損じであってもヒットコースに飛んだところは、大谷が心身ともに充実している証しだと思います」と付け加えた。
「ホームランを打つことだけがチームへの貢献ではない」
大谷はその後、4回の第3打席でパドレス3番手の左腕モレホン、6回の第4打席では4番手の右腕エストラダから、いずれも四球を選んだ。8回の第5打席は、6番手の左腕ペラルタの内角低めへのシンカーに、空振り三振に倒れた。
新井氏は「第2戦までは余計な力みがうかがえ、高めのボール球に手を出すシーンも目立った大谷ですが、この日は、高めのボール球を空振りしたのは第5打席の初球だけ」と分析。「大谷もナ・リーグの今季本塁打王ですから、ポストシーズン4本塁打を放っているパドレスのタティスのように、ホームランを量産したいと考えてもおかしくない。しかし、走者が得点圏にいる時にタイムリーを放ち、先頭打者の時に四球で出塁することも、チームに貢献する上で重要なことです。強引にならず、状況に応じてやるべきことができていると思います」と高く評価する。
大谷はこの地区シリーズ4試合で、打率.250(16打数4安打)、1本塁打、4打点、2四球だが、奮闘ぶりはその数字だけでは測れない。この日、4回1死走者なしから四球で出塁した後、続くベッツのごく普通の中飛で、タッチアップし二塁を陥れてみせた。集中力が研ぎ澄まされ、相手のわずかな隙も見逃さない。
「『10月にヒリヒリする戦いをしてみたい』と語ってきた通り、チームの勝利のためのプレーを真摯に続けています」と新井氏は評する。運命を決める11日(同12日)の第5戦でも、大谷の存在が勝敗に大きく関わることは間違いなさそうだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)