緊急登板で芽生えた自覚 “異変”も「行きます」…宇田川優希が感じた比嘉幹貴の凄み

オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】
オリックス・宇田川優希【写真:北野正樹】

オリックス・宇田川優希、“異変”にも「行きますと答えました」

 憧れの先輩の背中は遠かった。今季、緊急登板の際に右肘を痛めたオリックス・宇田川優希投手が、どんな場面でも平然と仕事をこなした比嘉幹貴投手(現1軍投手コーチ)の偉大さを、改めて思い知らされている。

 9月13日のソフトバンク戦(京セラドーム)の8回1死一、三塁。マウンドには宇田川が上がった。3番手の吉田輝星投手が1人目の打者、今宮健太内野手の打球を右くるぶしに当てて降板したことによる緊急登板だった。

 ブルペンの電話が鳴り、十分な準備ができずマウンドに向かったが、心は燃えていた。キャンプから出遅れ開幕1軍を逃した今季、1度の登録抹消を経て再登録されて7試合目。この期間の6試合は5回1/3で被安打2、5奪三振、2与死球、自責点0と完璧に近い内容で「やっと自分の投球ができるようになった」と自信を掴みつつあった。さらに、ブルペン陣を支えてきた比嘉や平野佳寿投手をコンディション不良で欠く中だったため「比嘉さんがいない以上、僕がやるしかない」という責任感も芽生えていた。

 しかし、栗原陵矢内野手への1球目で異変が起きた。134キロのフォークを本塁前にたたきつけたところで、肘に違和感が。仕草などで察知した厚澤和幸投手コーチとトレーナーがベンチを飛び出し確認へ。「もう代わるか、と厚澤コーチが言ってくださったのですが……。『行きます』と答えました」。続投したが、全てフォークで投じた5球で1つ空振りを取ったものの、四球を与え、降板となってしまった。

「輝星(吉田)が怪我をしたあとの登板でしたし、僕が1球で代わったら次のピッチャーに迷惑をかけてしまいます。自分の仕事はこういう場面だとわかっていますから、このイニングだけは投げ切りたいと思ったんです」。結果的に翌日に出場選手登録を抹消され、リハビリ期間に入ってしまったが、果たしたい自覚と責任感が宇田川に腕を振らせたのだった。

 緊急登板を経験して改めて思うのが、比嘉の凄さだという。「行くよ、と言われてからの準備。比嘉さんならマウンドでいきなり1球目から100%のピッチングができると思うのですが、やっぱりそこで大きな差を感じました。去年もそういう場面で比嘉さんが何の準備もしないで登板されるのを見てきましたが、すごく冷静でいつもと変わらず自分のボールが投げられるんです。僕は登板を告げられた時、えっとなったんですが、比嘉さんは待ってました、みたいな感じで行かれるんです」と驚きを隠せない。

 投球再開が間に合わず、秋季キャンプには参加できなかったが「1軍で活躍しているいいピッチャーが多いので、開幕1軍を目指すためにも春季キャンプでは最初からアピールしたい」と宇田川。苦い経験を糧に奮闘を誓う。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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