涙の宮城大弥を見て決めた「開幕投手」 厚澤コーチの“思い”…「心の片隅に置いて」
オリックス・厚澤投手コーチが、宮城大弥を開幕投手に指名した理由
忘れてはいけないメッセージを「開幕指名」に込めた。オリックス・厚澤和幸投手コーチが2025年シーズンの開幕投手に宮城大弥投手を選んだ理由を、昨シーズン最終戦までのマウンドに臨む姿勢にあったことを明かした。
「オリックスとしての財産は、あれを選手みんなが身近で見ることができたことだと思います。あれを見て、何も思わない選手はいないと思うんですよ。2025年シーズンにオリックスがもう1度、強くなるための“キー”にならなきゃいけないし、みんなが心の片隅に置いてプレーをしなきゃならない。当然、宮城もやらなきゃいない」。いつもは静かに語る厚澤コーチの口調が熱くなった。
厚澤コーチが「あれ」というのは、10月6日の楽天戦(楽天モバイル)でソフトバンクのリバン・モイネロ投手と防御率のタイトルを争う中、雨中に登板した宮城の姿だった。163イニングを投げ、防御率1.88のモイネロに対し、試合前までの宮城は135回2/3で、防御率1.92。7回1/3を自責点0ならモイネロを逆転できる厳しい条件だった。
打線の援護を受けた宮城は1点を失ったものの、自責点1のまま9回を投げ切ると防御率1.87で逆転するところだったが、7回1死で降雨コールドゲームに。あと4つのアウトを取れば届いた規定投球回の到達も逃してしまった。
宮城は今年5月に左胸を痛め、約50日間も1軍マウンドを離れた。それでも20試合に登板し、タイトル争いに食い込むまでに奮闘した。首脳陣もコンディションを常に確認しながら、タイトル獲得をサポートした。
「2か月近くも離脱した投手が、規定投球回に迫るのは立派だし、タイトルは獲れなかったのですが、そこに向かっていく姿勢はみんなが見ていたんです。できることなら叶えさせてあげたいと思いました。結構、危ない橋を渡りました。後半に(登板を)詰め込んでしまったので、気を使いながら登板させていました。怪我をしてしまっては意味がないですから」と厚澤コーチは語る。
真っすぐな視線で、開幕投手は「宮城、一択です」
無情の降雨コールド。9回まで自責点1で投げ抜き、モイネロを逆転できたかどうかはわからない。ただ、ベンチにはタイトルに挑戦する機会を最後の最後で奪われ、涙する宮城の姿があった。
「僕も泣きました。なんか自然に……」と目を伏せた厚澤コーチ。「でも、そこにメッセージがあるのかなと。だから僕も含めて、まだまだやらなきゃいけないことがあるのかなと思いました。中嶋(聡)前監督も辞める時にメッセージを送っているじゃないですか。中嶋前監督と宮城の背中。この2つは、絶対に忘れてはいけないのです」と続けた。
最後には真っすぐな目線で言う。開幕投手は「宮城、一択です」。厚澤コーチのその言葉に、チームが結束して覇権奪取に向かう強い思いが込められている。
○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)