殺到した“引退”のオファー「そんなことあるんだ」 トライアウトで知った戦力外の立場

楽天時代の佐藤智輝【写真:荒川祐史】
楽天時代の佐藤智輝【写真:荒川祐史】

元楽天の佐藤智輝…2度目の戦力外は4月に意識

 1度目と異なり、2度目の通告には全く驚きはなかった。社会人・Honda鈴鹿でプレーする佐藤智輝投手は2023年オフに楽天から戦力外通告を受けた。同年は2軍で2試合2/3を防御率40.50。「来るだろうなって、自分の中では思っていました」。球団からの電話も落ち着いて取ることができた。

 2021年オフに1度目の戦力外通告を受け、育成契約へ。背番号は3桁の「001」になったが、決して腐ることはなかった。2022年は2軍で自己最多の11試合に登板。防御率6.64だったが、手応えを少しずつ掴み始めているところだった。

 2023年の春季キャンプではプロ入り後初の1軍メンバーに。練習試合では2回1失点、1/3を無失点と好結果を残していた。ただ、2月15日の阪神戦で佐藤輝明内野手にスライダーを投げ込んだ際に左肩に違和感を覚えた。その後も続投し、1回と1/3を無失点に抑えたが、速球は130キロ台。「全部チェンジアップみたいな感じで。これはもうダメだなって」。左肩を肉離れしていた。

 その後はリハビリ生活を余儀なくされ、焦りもあった。無理やり復帰した4月19日の2軍・巨人戦。3者連続四球を与え降板した。「これはもうダメだなって思いました。ビシって抑えられればまた違ったかもしれないんですけど……」。

トライアウトで驚いた会社員の誘い「そんなことってあるんだ」

 2度目の登板は4か月後の8月27日。サイドスローにもチャレンジするなど、試行錯誤も虚しくオフに戦力外通告を受けた。他球団での現役続行を模索して12球団合同トライアウトに参加。そこで想像とは違う現実を目の当たりにする。

 2023年11月15日、肌寒い日本ハム2軍の本拠地・鎌ケ谷スタジアム。トライアウト前にも関わらず、オファーが届いた。試合前に渡された名刺には人材派遣会社の名前。選手としてではなく、会社員としての誘い。「ええ……みたいな。そんなことあるんだって感じでした」。戸惑いを隠せなかった。

 トライアウトでは1つの四球を与えたが、併殺含む2つの内野ゴロで3つのアウトを奪った。それでもNPBからの誘いはなかった。「ある程度割り切っていました。2日目くらいまでは緊張とかもあったんですが、3日目くらいからどこでやろうっかって感じで」。

 会社員の誘いで引退の2文字が頭をよぎった。それでも「プロに戻ってほしい」と話す両親の言葉が原動力になっている。「社会人からもう1回プロって前例があまりないので。難しいことでもできると証明したい」。まだまだ、夢は諦めていない。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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