異国で受けた屈辱「そこは俺の席」 体育座りで12時間…車中で誓った「絶対見返す」

メキシコ時代の元DeNA・乙坂智氏【写真:本人提供】メキシコ時代の元DeNA・乙坂智氏【写真:本人提供】

元DeNAの乙坂智は2017年オフに単身でメキシコWLに参加した

 元DeNAの乙坂智外野手は入団6年目の2017年オフに単身でメキシコでウインターリーグに挑戦。ヤキス・デ・オブレゴンの一員としてプレーした。日本とはまるで違った環境に「衝撃はデカかった」と振り返り、合流初日は屈辱の“アウェーの洗礼”を浴びることとなった。

「英語だと思っていたら、空港着いたらスペイン語で文字が読めなくて、どこいったらいいかわからない。1人だったので、片言の英語で自分で探してチームのところまで行きました」

 単身武者修行はシンガーソングライター、ナオト・インティライミのドキュメンタリー映画「冒険記 旅歌ダイアリー」をたまたま観たことがきっかけだった。「『立ち止まっていたら景色はそのままだし、動き出したら景色は変わる』というようなことを言っていたんです。自分は2016年、2017年とそこまでの結果を残せなくて、何か変わりたいなと思っていたときに映画を観て、その言葉がスッと刺さりました」。

 すぐに海外チームとコンタクトをとれる知人に連絡し「どこかないですか?」。オブレゴンから練習生ならOKとの返答があり、即決した。現地到着後、なんとかチームに合流すると、そのままバスで遠征先に移動することとなった。

 バスには1番乗り。車内でチームメートを待つことになったが、どこに座っていいのか分からず、前から4列目のシートに腰掛けた。しばらくすると打撃コーチが乙坂を見下ろしながら「どけ。そこは俺の席だ」。座る場所を変えても同じことの繰り返し、そのうち首脳陣や選手で満席になった。

「俺、座るところねえな。通路に立ち尽くしていても誰も声をかけてくれない。彼らからすれば自分は誰だかも知らないわけですから。結局、通路に体育座りです。そのうち、彼らが飲んだビールの空き缶が転がってきたり、その中身が流れてきたり」。屈辱に耐えた12時間の長時間移動。車中で「こいつらを絶対に見返そう」と強く誓ったという。

「自分は変わりたくてメキシコに来た」

 しかし、それは対立を意味するものではなかった。「自分は変わりたくてメキシコに来ているから、周りに受け入れられようとしました。人見知りなんてしていられない。自分からいかないとダメだな、と」。毎朝、早くグラウンド入りし打撃コーチをつかまえて、Google翻訳を駆使しながら練習した。同僚とも積極的に会話を試みた。

 メキシコでの野球は「衝撃はデカかった」と振り返る。日本では基本的には遠征先に前日入りし、万全の状態で当日を迎える。一方でメキシコはすべてナイターのため、その日にバスで移動。車中で睡眠をとり、そのまま球場でアップして試合。「みんなタフでした。痛い、痒いは言わないですし」。

 切り替えの早さも日本とは違ったという。「打たれて負けた投手は、その日は悔しさを露わにするけど翌日は笑顔で挨拶していつも通り。1晩でしっかり切り替えているんです。日本だったら『昨日打たれているのに何笑っているんだよ』みたいな声も聞こえてきそうですが、あっちは終わったことは何も変えられない。これからどうしていくかが大事、みたいな。そういうのはいいなと思いました」。

 徐々にチームに馴染み出した乙坂は、約1か月の武者修行で27試合に出場。打率.410(100打数41安打)、OPS.967と圧倒的な成績を残し、いつの間にか仲間にも認められる存在となっていた。「トモと呼ばれるようになり、バスにも座れるようになりました。フフフ」。技術的にも、精神的にも一回り強くなった、手応え十分の単身メキシコ挑戦だった。

(湯浅大 / Dai Yuasa)

Restart_乙坂智編

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