台湾MVP→異例のNPB挑戦 メジャーではなく来日選択…侍J封じの右腕が秘める“強さ”
日本ハムに入団した古林睿煬の“秘密”
日本ハムに今季から新たに加わるのが、昨年の台湾プロ野球で年間MVPを受賞した古林睿煬(グーリン・ルェヤン)投手だ。果たして台湾の逸材は、いかにして日本でのプレーを叶えたのだろうか。
古林睿煬は昨季、、統一セブンイレブンライオンズに所属し、リーグ3位の10勝、防御率1.66で最優秀防御率賞に輝いた。台湾人投手の年間MVP獲得は、楽天でもプレーした2006年の林恩宇投手(誠泰コブラス)以来、実に18年ぶりという快挙であった。受賞会見に出席した右腕は、プロ入りを果たした2018年、祖父と父が相次いで他界したことに触れ、家族への思いを語った。
「今、この場所に立てているのは、当時、投手コーチとして自分の育成役となってくれた林岳平監督のお陰です。自分にとって林監督は指導者という存在のみならず、第2の父親のような存在です」
そして「なかなかいいパフォーマンスができず、自信を失いかけたこともありましたが、林監督は先発として独り立ちできるよう、何度もチャンスを与えてくれ、厳しい声からも守ってくれました。MVP受賞を林監督、そして天国の祖父と父が誇らしく思ってくれると嬉しいです」と涙ぐみながら語った。
海外球界でのプレーを目指したポスティングシステムへの申請が、リーグから発表された直後に行われたこの日の表彰式。「今後どこでプレーをするにしても、この栄誉を胸に自分への挑戦を続けていきます」という決意表明でスピーチを締めた古林に、大きな拍手が送られた。
日本ハムは昨年11月12日、古林の優先交渉権獲得を、そして20日には契約合意を発表した。昨年11月26日、台北市内で行われた記者会見には、日本ハムからは栗山英樹CBOと岩本賢一チーム統轄副本部長が、統一からも関係者が出席した。林岳平監督はプレミア12で投手コーチを務めており、同日行われた優勝祝賀パレードを欠席してまで駆け付けた。
林監督にとって古林は、現役引退の翌年、指導者初年度の2018年に預かり、怪我のリハビリから手塩にかけ育ててきた思い入れの深い選手だ。林監督は、何度も言葉をつまらせながら「古林をエースに育て、海外へ送り出せたことは、自分にとっては、先日のプレミア12の世界一よりも誇らしい」と語った。
これに対し、栗山CBOは「ここまで育ててくださったライオンズの皆さん、林監督の思いを受け止めながら、古林投手がさらに成長するよう、我々も全力を尽くし精一杯やっていきます」と宣言。そして「僕は世界で一流のピッチャーとやりたいという考えをもっていますが、この数年、古林投手の成長、頑張りを見て、是非ともファイターズで一緒にやりたいと思うようになった」と獲得理由を説明した上で、台湾のファンに向け「皆さんに喜んでもらえるよう、必ずや世界で一流のピッチャーになってくれるためのお手伝いをしますので、これからも是非応援をお願いします」と訴えた。
栗山CBOから着せてもらった「GU LIN 37」のユニホーム
「GU LIN 37」と書かれたユニホームを栗山CBOから着せてもらい、帽子を被った古林は笑顔を見せた。その後、会場に流されたビデオメッセージでは、まず、スーツに身を包んだ新庄剛志監督が登場、古林夫妻のみならず、おばあちゃんにも「お孫さんは僕に任せてください」と胸を叩き、強力バックアップを約束すると、続いてエースの伊藤大海投手が「北海道、そしてファイターズの環境に慣れることができるよう、僕たちもサポートします」と語った。
そして、次に登場したのは、古林にとって少年時代からの憧れであるダルビッシュ有投手(パドレス)だった。「いつか一緒にプレーしたいです。まずは1度、一緒に練習しましょう。頑張ってください」と激励を受けた古林は、興奮を隠しきれない様子だった。
統一関係者に加え、小中高時代の指導者も一同に介したこの日の記者会見。古林はまず、高校までの各指導者の名前をひとりひとり挙げながら「皆さんの存在なしに、今の自分はなかった」とお礼、そして台湾プロ野球を運営するCPBLの蔡其昌・コミッショナー及び全6球団の努力にも感謝した。現在、台湾の多くの高校生プロスペクトが卒業後、直接海外リーグに挑戦する中、台湾プロ野球経由でチャンスをつかんだ自らを例に挙げ「国内の高校生には『台湾からも優れた選手を生むことはできる、異なるルートもある』ということを伝えたい」と、熱く語った。
昨年12月7日には、統一の本拠地、南部・台南市の台南球場のグラウンドで、歓送イベントが開催された。至る所に「台南から世界へ!」と日本語のスローガンが書かれた同イベント。トークショー、Q&Aのほか、サイン会も行われ、2000人近いファンがかけつけ盛り上がりをみせた。記者会見に続き、この日も、小中高のチームメートでプレミア12代表の戴培峰捕手(富邦ガーディアンズ)ら、高校(平鎮高中)の同期や後輩がシークレットゲストとして登場、古林は「またお前らか、飽きたよ」と憎まれ口を叩きつつ、旧友からの祝福を喜んでいた。
高校つながりでは、興味深い話題もある。今回、日本ハムで古林の通訳に就任することとなった高麗諒氏は元日本人留学生で、高校時代のチームメートだ。平鎮高中は、現役の台湾プロ野球選手が50人、高校別人数でトップの強豪だけに、在学時代には、現在プロでプレーする面々と「もし将来、日本に行くことになったら通訳をするよ」と話していたという。
高校時代には田宮と対戦を経験「ぜひ仲良くなってバッテリーを」
2023年の秋、アジアプロ野球チャンピオンシップの日本戦で古林が好投をみせた際も、冗談半分でその話をしていたそうだが、今回、日本ハム入りが決まると、古林はただちに高麗氏を通訳に指名、岩本副本部長の協力もあり、通訳就任が正式に決定したという。古林は「新たな環境でプレーするうえで、ファイターズさんが自分にとって近しい存在である彼を通訳にしてくれたことを感謝しています」と話した。
また、高校時代の2017年の冬、招待大会で来台した千葉県選抜チームに、現在、日本ハムの田宮裕涼捕手と清宮虎多朗投手がおり、決勝で平鎮高中と対戦。先発した古林と、主将で5番捕手として出場した田宮が対決したことも話題となっている。古林本人にその記憶があるか尋ねたところ、「人から教えてもらったんですが、その対決自体は覚えていないんですよ」と苦笑い。そのうえで「でも、不思議な縁ですよね。ぜひ仲良くなってバッテリーを組み、チームにたくさんの勝利をもたらしたいと思います」と期待した。
マウンド上では負けん気の強さを見せつつ、シャイでマイペースな一面もある古林。幼少時代から一緒に暮らしたおばあちゃん思いの優しい性格の持ち主で、台湾同様、日本でもきっとファンから愛されるはずだ。外国人選手に対するケアは厚く、ムードのいい日本ハムだが、それでもやはり、異なる環境でのプレーは苦労もあるだろう。そんな時は、きっと皆さんの温かい声援が力になるはずだ。日台のファンの声援を力に、エスコンフィールドのマウンドで躍動する日が今から楽しみだ。
(情報は1月19日時点のもの)
(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)